2013年6月11日火曜日

花の香りを連想させる詩②

前回の杜牧(とぼく)と同じ晩唐9世紀の詩人、高駢(こうべん)の『山亭夏日(さんていかじつ)』も、私の好きな詩だ。夏の山荘における暑さのなかで、バラの香りとともに、一抹の清涼感を覚えたときのこと。

緑樹陰濃 夏日長 りょくじゅ かげこまやかにして かじつながし
楼台倒影 入池塘 ろうだい かげをさかしまにして ちとうにいる
水晶簾動 微風起 すいしょうれんうごいて びふうおこる
一架薔薇 満院香 いっかのしょうび まんいん かんばし

《通釈》
緑の樹は、陰もこまやかにこんもり茂り
夏の一日はのんびり長い

山荘の建物は影をさかさまにして
静かな池の水面に映っている

水晶をはめたすだれがすこし動いて
少しそよ風があるようだ

その微風で棚いっぱいにおいたバラの香りが
庭中にさわやかに満ち満ちた・・・

「一架の薔薇」は「満架の薔薇」と同じ。
「一」と「満」が同じというのは変かもしれないが、「一面の菜の花」「満面の笑み」ということを想起して頂きたい。

楼台(ろうだい)は、高殿の意味。この詩は「七言絶句(しちごんぜっく)」という形式で詠まれたもので、言外に山の静けさがうかがわれ、詩人が思わずバラの香りに酔うさまを思い浮かばせる。
この詩人はその後、悲劇的な最期を迎えるのだが、未来のことが判らないところに人間の幸せがあるのだろう。

次回は、趣を変えてフランスの香りの詩をご紹介したい。

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