2015年3月28日土曜日

精油の原料植物のフランス語名‐その1

精油・エッセンス、あるいはアブソリュートの原料となる植物名は、日本ではおおむね英語名で呼ばれる。でも、これらをフランス語では何というかと尋ねられることが往々ある。アロマセラピストとしてアロマサロンを開設しようとする人が、店名にしようとしてか、そんなことを私に聞いてきたときもあった。 

そこで、主要な芳香植物のフランス語名と学名とを合わせてご紹介してみようと思う。しかし、カナで原語の発音を正確に表現するのは所詮、不可能である。あくまでも「近似的」なものと考えて頂きたい。順不同に記すことにする。

アンジェリカ (仏名)angélique alchangélique 〔アンジェリク・アルカンジェリク〕 /(学名)Angelica archangelica (天使ange 〔アンジュ〕の中でも上位のクラスである、上から2番目の天使をarchange 〔アルカンジュ〕という。ミカエル、ガブリエル、ラファエルなど。その形容詞がarchangéliqueである。)

バジル (仏名)basilic 〔バジリク〕 /(学名)Ocimum basilicum

ベルガモット (仏名)bergamote 〔ベルガモット〕 /(学名)Citrus aurantium ssp.bergamia

カモミール(ローマン) (仏名)camomille romaine 〔カモミーユ・ロメーヌ〕 /(学名)Chamaemelum nobile (camomille noble 〔カモミーユ・ノブル〕という仏名もある。)

カルダモン (仏名)cardamome 〔カルダモム〕 /(学名)Elettaria cardamomum

キャロット (仏名)carotte 〔カロット〕 /(学名)Daucus carota

シナモン(セイロン) (仏名)cannelle de Ceylan 〔カネル・ド・セラン〕 /(学名)Cinnamomum zeylanicum

キャラウェイ (仏名)carvi 〔カルヴィ〕 /(学名)Carum carvi

シダーウッド(アトランティック) (仏名)cèdre de l'Atlantique 〔セドル・ド・ラトランティク〕 /(学名)Cedrus atlantica

セロリ (仏名)céleri 〔セルリ〕 /(学名)Apium graveolens

レモン (仏名)citron 〔シトロン〕 /(学名)Citrus limon

レモングラス(ウェスト) (仏名)citronnelle 〔シトロネル〕、verveine des Indes 〔ヴェルヴェーヌ・デ・ザンド〕 /(学名)Cymbopogon citratus

コリアンダー (仏名)coriandre 〔コリアンドル〕 /(学名)Coriandrum sativum

クミン(仏名)cumin 〔キュマン〕 /(学名)Cuminum cyminum

サイプレス (仏名)cyprès toujours vert 〔シプレ・トゥージュール・ヴェール〕 /(学名)Cupressus sempervirens

エストラゴン(タラゴン) (仏名)estragon 〔エストラゴン〕 /(学名)Artemisia dracunculus

ユーカリ(レモン) (仏名)eucalyptus citronné 〔ユーカリプチュス・シトロネ〕 /(学名)Eucalyptus citriodora

ユーカリ (仏名)eucalyptus officinale 〔ユーカリプチュス・オフィシナル〕 /(学名)Eucalyptus globulus

ウィンターグリーン (仏名)gaulthérie 〔ゴルテリー〕 /(学名)Gautheria procumbens

ジュニパー (仏名)genévrier commum 〔ジュネヴリエ・コマン〕 /(学名)Juniperus communis

ゼラニウム(ローズ)(仏名)géranium rosat 〔ジェラニヨム・ロザ〕 /(学名)Pelargonium x asperum

ジンジャー (仏名)gingembre 〔ジャンジャンブル〕 /(学名)Zingiber officinale

クローブ (仏名)girofle 〔ジロフル〕 /(学名)Eugenia caryophyllata

ヘリクリサム (仏名)Hélichryse italienne 〔エリクリズ・イタリエヌ〕 /(学名)Helichrysum italicum

ヒソップ (仏名)hysope officinale 〔イゾプ・オフィシナル〕 /(学名)Hyssopus officinalis

ローレル (仏名)laurier noble 〔ロリエ・ノブル〕 /(学名)Laurus nobilis

スパイクラベンダー (仏名)lavande aspic 〔ラヴァンド・アスピック〕 /(学名)Lavandula latifolia, L.spica(フランスではかんたんに、aspic 〔アスピック〕とも称する)。

真正ラベンダー (仏名)lavande vraie 〔ラヴァンド・ヴレ〕 /(学名)Lavandula angustifolia(以前には、L.veraともいった)

ラバンジン (仏名)lavandin 〔ラヴァンダン〕 /(学名)Lavandula hybrida, L. intermedia

今回は、このくらいにしておきましょう。

2015年3月14日土曜日

ローズマリー|精油類を買うときには注意して!(42)

ローズマリー油

学名:Rosmarinus officinalis L.

 学名は上記のとおりだが、P.フランコム氏は、これの「ケモタイプ」を3種あげ、それぞれに下記のような学名をあてている。すなわち、
  1. Rosmarinus officinalis L. camphoriferum(カンファーケモタイプ)
  2. R. officinalis L. cineoliferum(シネオールケモタイプ)
  3. R. officinalis L. verbenoniferum(ベルベノンケモタイプ)
さらに、また同氏はR. officinalisの近縁種として、R. pyramidalisを紹介している(“Aromatherapie exactement”邦訳題名『フランス・アロマテラピー大全』高山林太郎訳)。

 ローズマリーは、シソ科マンネンロウ属の常緑小低木で、南欧地中海周辺に上掲の4種が生育している。和名はマンネンロウ、英語でrosemary、フランス語でromarin(ロマラン)、中国名は迷迭香(ミディエシャン)、ドイツ語でRosmarin(ロスマリン)、イタリア語でrosmarino(ロスマリーノ)、スペイン語でromero(ロメロ)という。

 学名は、ラテン語のros marinus(海の露、海のしずく)、すなわち波がうちよせる岩場の近くにこの植物がむらがって生え、4~5月ごろに咲く薄紫の小さな無数の花々が、あたかも砕ける波のしぶきを連想させることからRosmarinusと命名されたらしい。ローズマリーとか、ロスマリンとかという名は、女性の名としてよく使われる。

 この小低木は、高さ60~130㎝、葉は細長く、長さは3㎝ほど。葉の裏側には、びっしりとワタ毛が生えていて、葉がたくさんついた茎をかるく握ってスーッと滑らせると、てのひらに独特の爽やかな芳香が移る。これがローズマリーのエッセンスの香りである。この精油は、香料として広く利用される。また、ローズマリーはハーブの1種として、野菜料理、肉料理によい風味を添え、シチューやスープなどにも加えられる。
 
 ローズマリーの花の蜂蜜は私の好物で、フランスに行ったときには、ラベンダーの蜂蜜とともに、よく味わっている。日本でも、モーリス・メッセゲのハーブティーを扱っているショップなどで、この手の蜂蜜が購入できるだろう(ユーカリの蜂蜜、ヒマワリの鮮黄色の蜂蜜、タイムの蜂蜜なんていうのもオツなものですよ、それぞれの植物の風味がちゃんと残っている)。

 ヨーロッパでは、このローズマリーはハーブ薬として黄疸(おうだん)の治療に、また堕胎の目的などに使われ、さらに病気をもたらす瘴気(しょうき)を消し、悪魔を払うのに燻蒸剤として使用された。今日のチューインガムのように、この葉を噛んで口臭を消すのにも用いられた。

 中国では迷迭香として、胃を健やかにし、各種の痛みを鎮めるなどの目的で薬用される。
 日本には、文政年間(1818~1830)に入ってきた植物である。

原産地
フランス、イタリア、スペインなど地中海沿岸。今日ではロシア、中東などでも生育している。

精油の抽出
葉、あるいは木質化した部分をとり除いた花の咲いた先端・葉・茎の全体を水蒸気蒸留して精油を得る。

精油の化学成分(%で示す。各種のケモタイプにより大幅な差がある)
1,8-シネオール 7-60
ミルセン 0-10
α‐ピネン 3-34
β‐ピネン 1-8
p‐シメン 0-3
カンファー 3-30
ベルベノン 15-37
ボルネオール 1-12
ボルニルアセテート 2-3

(注)
R. officinalis camphoriferumは、カンファーを30%も含み、カンフェンは22%、1,8‐シネオールは30%それぞれ含有する。
R. officinalis cineoliferumには、1,8‐シネオールが60%も含まれる。
R. officinalis verbenoniferumは、ベルベノンを37%、α‐ピネンを最高34%おのおの含有する。
R. pyramidalisについては、含まれる成分の正確な数値はまだ十分に把握されていない。ただ、1,8‐シネオール分、αおよびβ‐ピネン分の含量はかなり高いとみられる。

偽和の問題
少量のローズマリー油に合成したシネオール、各種のテルペン類(αおよびβ‐ピネン、カンフェンその他)、サイプレス油、カンファー油、ユーカリ油(Eucalyptus globulusおよびE. radiate)、ターペンタインの留分、合成テルピネオール、シダーウッドの留分などでうんと増量したものが市場に出回っている。低価格で入手できるスペインのローズマリー花の脱テルペン精油を添加して、高級感をかもしだすという手のこんだ詐欺行為をする業者もいる。いわゆるブランド品の精油など、もっともタチが悪いと心得られよ。喝!

毒性の問題
・LD50値
 >5g/kg(経口)ラットにおいて
 >5g/kg(経皮)ウサギにおいて

・刺激性・感作性
 ヒトにおいて、10%濃度で皮膚に適用したが、これらはいずれも認められなかった。

・光毒性
 まだ、この試験報告はない、しかし、真正ローズマリー油の成分からみて、この作用はあまり考えられない。


作用
・薬理学的作用
ローズマリー油は、モルモットの回腸で(in vitroで)著明な痙攣惹起作用を示した。しかし、逆説的に一定の平滑筋弛緩作用、鎮痙作用も看取された。ウサギを用いての試験で、その気管の平滑筋を弛緩させる効果が認められた。

・抗菌作用
ほとんどの細菌にたいして、きわめて強力。ただ、この精油を蒸散させた場合は、その効果はかなり落ちる。

・抗真菌作用
真菌の種類によって、弱から中程度の効果を示した。

・その他の作用
抗酸化作用は、さまざまなテストの結果、この精油には期待できないことが判明している。ローズマリー油は、マウスを刺激し、興奮させる作用を示した。CNVの波形の観察によって、この精油がヒトの脳にもマウスと同様の効果があることがわかった。でも、だからといって、ローズマリー油に記銘能力を向上させるとか、果ては認知症を予防したり治療したりする力があるなどと性急な結論を出すのは、つつしみましょう、どこかの大学の先生がた。…

また、癲癇患者はもとより、遺伝的にその素質のある人間にローズマリー油のオイルマッサージを施すと、その発作を惹起するとされている。なにせカンファー分が多いからね。

付記1
 ヨーロッパでは、古代ギリシャの昔から、バラを花の女王と考える人びとが多い。古代ギリシャの美の女神アプロディーテー、古代ローマの美の女神ウェヌスを象徴する花として香り高く、色も美しいバラが選ばれたのも当然であった。こうしたヘレニズム文化と、そこに突如わりこんできたヘブライズム文化(ユダヤ教も母胎としたキリスト教的世界観を核とする文化)とのせめぎ合いが、のちのヨーロッパ文化を形成した。古代ギリシャ文化が後世のヨーロッパ文化に直結したものだなんていう奴には、ウソもいいかげんにしやがれ、とドヤしつけてやりたい。

 ところで、カトリック教会は宣教の方便として聖書にもろくな記述がない「聖母マリア」なる1種の女神を発明した。けだし母親への慕情はsomething internationalだからだ。で、この女神を崇敬するためにささげるものとして、ユリの花が選ばれた。汚らわしい、淫乱な多神教の女神を賛えるバラなど、もってのほかだというわけである。しかし、rosemaryというコトバの誕生後、その語源とは関係なくrose + mary、すなわち聖母マリアとバラが結びつけられて考えられるようになり、バラがこの一神教では本来、存在してはならぬ「女神」の像や絵画などに添えられるようになった。これも一種の「ルネサンス」だろう。このことはハーブとしてそのローズマリー、アロマテラピー用精油としてのローズマリー油とは、直接結びつくものではないが、ちょっと私がつれづれなるままに連想した一席である。

付記2
 シェークスピアの四大悲劇の1つ『ハムレット』で、忘れがたいセリフの一つに,復仇のために狂人を装ったハムレットにじゃけんに扱われ、なかば気がふれた哀れなオフィーリアのこういうことばがある。
“There’s rosemary, that’s for rememberance.”
(ローズマリーをどうぞ、忘れないで、というしるしよ)

 中近世のヨーロッパのハーバリズム(植物療法)でも、これの香り、あるいは香りのもとのローズマリーが、記憶を留める効果があるとされていたようである。また疫病の蔓延防止(これは理解できる)、不老、魂の不滅化(これはあまりアテにはならない)の目的でローズマリーが使用された。

 ローズマリーの花言葉は「変わらない愛と記憶」、「貞節・誠実」などである。どれもアテにならぬものばかりです。

付記3
 なんでもそうだが、CO2抽出法にもポジティブな面とネガティブな面とがある。たとえばラベンダー油に含まれるリナリルアセテート、ジャーマンカモミール油に含有されるカマズレンはいずれも水蒸気蒸留中に一定の圧力と熱とのもとで、化学的に自然に生成する成分なので、CO2抽出法でとったこれらのアブソリュートには、リナリルアセテートもカマズレンも入っていない。だから、それらの成分のもたらす諸効果も全く期待できない。

 しかし、ローズマリーのエッセンスは、CO2抽出法でとった場合、成分が変化しないので、なまのハーブそのままの成分が保持され、香りもローズマリー精油より格段によい。一度嗅ぐと、あっと驚くことうけあいである。ぜひ専門家にこの「効果」を臨床的に研究してほしいと願うこと切なり、だ。
ただし、原料植物が有機栽培・無農薬品でなければダメだが。


精油をお探しの方へ 信頼できる精油を探していらっしゃる方にご紹介することも可能です。
お電話は、または以下よりお気軽にご相談ください。
http://form1.fc2.com/form/?id=957132
080-5424-2837 (髙山 林太郎 直通)

2015年3月5日木曜日

ローズウッド(ボア・ド・ローズ)|精油類を買うときには注意して!(41)

ローズウッド(ボア・ド・ローズ)油

学名 Aniba rosaeodora var.amazonica Ducke.
         Aniba parviflora Mez.
         Ocotea caudate Mez.

 南米の熱帯地方ガイアナ、ブラジル、ペルーなどに生育するクスノキ科の常緑高木、樹高30~40mになる。このローズウッドは南米ガイアナ、アマゾン川流域の低地の熱帯雨林にとくに広く分布する。
この木材には、リナロールが多量に含まれ、バラを思わせるその香りからrosewoodの名がつけられた。
香料業界ではこの木はもっぱらそのフランス語のbois de rose(ボア・ド・ローズ)の名で呼ばれ、かなり以前からこの材から採れる精油が香水などの原料に使用されてきた。
アロマテラピーにこの精油が用いられるようになったのは、比較的近年になってからである。

精油の抽出
 ローズウッドの原木をチップ状にしたり、オガクズのように細かく砕いたりして、それを水蒸気蒸留して精油を得る。

主要成分(%で示す)
リナロール 85.3-94
1,8‐シネオール 0-1.6
リモネン 0.6
シス‐リナロールオキシド 0-1.5
トランス‐リナロールオキシド 0-1.3
テルピネン‐4‐オール 0.4
α‐テルピネオール 3.5

偽和の問題
 ローズウッドは、現在、ワシントン条約で商取引が禁じられている絶滅危惧種の植物の一つなので、まともなルートでは本物のローズウッド油はまず入手できない。そこで、合成リナロール、合成リナリルアセテートそのほかの成分で偽造した「ローズウッド油」が横行することになる。

 ローズウッドは生長するのに時間がかかるので、その木を切り倒したら、かならずローズウッドの苗木を1本植えることがブラジルで義務づけられたりしたが、これで自然破壊を食い止めることは無理である。そこで、ローズウッドの葉を採取して、その木材に代用しようという提案も行われた。
しかし、葉と材とでは含有成分が異なるので、これも却下された。そこで成分がかなり似ている芳樟(Cinnamomum camphora)の精油がローズウッド油に代えて利用されることが、近年とみに多くなっている(本ブログの「芳樟油(30)」を参照されたい)。以下参照
http://rintarotakayama.blogspot.jp/2014/09/blog-post_30.html
ローズウッド油は、それに代わるもっと安い精油は複数あるので、それらの活用をおすすめしたい。

毒性の問題
・LD50値
 >5g/kg(経口)ラットにおいて
 >5g/kg(経皮)ウサギにおいて

・刺激性・感作性
 ローズウッド油をヒトの皮膚で、12%濃度で適用したが、いずれも認められなかった。

・光毒性
 これまでに報告された例はない。

作用
・薬理学的作用
 モルモットの回腸で(in vitroで)、鎮痙作用がみられた。

・抗菌作用
 細菌の種類にもよるが、総じてきわめて強力である。

・抗真菌作用
 試験に供した真菌の種類によって、強弱さまざまな力を示すので、一概にはいえない(弱ないし中程度というところだろう)。

・その他の作用
 ローズウッド油には、抗酸化作用は、まず期待することはできない。この精油は、ヒトの皮膚にも粘膜にもきわめて穏和である。


付記
 Aniba属には、40種以上ある。Aniba terminalisからもA. rosaeodoraと似た精油がとれる。また、A. canelillaの樹皮にはシナモンと同様の芳香があって、ペルーではこれを茶として利用しているそうである。こんど、折があったら日本緑茶センター株式会社の北島社長にこれについてご教授を仰ごうと思っている。