2013年7月22日月曜日

サンダルウッドについて

サンダルウッド(ビャクダン)は、ふしぎな芳香植物である。これは樹高の低い木で、植えてから(あるいは芽を出してから)80年から90年という樹齢で一生を終える。

ここでこの植物を取り上げたのは、この精油は、いま市販されている各種のニセモノ精油のチャンピオンクラスの一つなので、人間の悪知恵の例として興味深いこと、また実際にこのテラピーに携わっている方がたのご参考に多少ともなればと願ってのこととご了承頂きたい。

サンダルウッド(Santalum album)は、ビャクダン科の一科一属一種の木本植物である(と、断言してしまうのは、厳密には少し問題があるが)。

この木は、緑の葉をつけ、光合成をするにもかかわらず、先に吸盤のついた吸根をのばし、それをほかの植物の根部に吸い付かせ、寄生した植物からもチャッカリ栄養分を頂戴する。この作業は、幼樹のころからすぐに開始する。幼いころは、イネ科・アオイ科の植物からこの寄生(正確には半寄生)をはじめ、生長するにしたがって、寄生対象となる植物を最高140種にまで拡大する。

他人が努力して地中から吸い上げた養分を横取りするなんてけしからん植物みたいだが、そうしないとサンダルウッドは自力だけでは生育できないのである。半寄生植物の宿命だ。

ユーカリなどは、有毒物質を根から分泌して、周囲のほかの植物を殺してしまう(まあ結果的にはサンダルウッドと同じことになるが)のだから、さらにひどいヤツということになるかも知れない。けれども、生きるために(個体として、また種族として)は、やむを得ない所業なのだ。責任はすべて自然にあり、それを創りだし、司る神様にあるのだろう。

そして、その植物に直接寄生して、それを食って、草食動物は生きるエネルギーを得るし、その草食動物をエサにして肉食動物は生命をつなぎ、子孫へと命のバトンタッチをしている。

でも、それは彼らとしては最低限度の「殺生行為」であって、私が彼らの行いを裁く立場にあったら、彼らの行為の罪を問うことはしまい。そもそも人間がどんなデタラメなことをしているか、よくわかっているからである。

サンダルウッドの、ことに心材部分の香りは形容しがたいほど、エキゾチックでオリエンタルなものと西洋人には感じられるらしい。心材から発するこの香りは、この樹木の内部で産生されるエッセンスが放つものである。

サンダルウッドの自然生産地は、インドのカルナータ州で、ここにサンダルウッドの名産地、マイソールがある。この州で、インド産サンダルウッド油の90%が生産されている。

しかし、長年の伐採のせいで、サンダルウッドの原木数が激減してしまったのでいまではマイソール産のホンモノの精油は、普通の商業ルートでは、まず入手できなくなってしまった。

インド政府がほとんどすべての原木を管理下におき、(原木毎にナンバーがつけられている)、盗伐・精油密輸などを厳重に取り締まっているためである。

そこで、現在我が国などで販売されている「サンダルウッド油」はまず例外なくニセモノとみてよい。本来のサンダルウッド油は、

α-サンタロール(アルコールの一種)45-60%
β-サンタロール(アルコールの一種)17-30%
エピ-β-サンタロール(アルコールの一種)4.3%
トランス-β-サンタロール(アルコールの一種)1.6%
シス-ランセオール(アルコールの一種)1.2%
α-サンタレン
β-サンタレン  (αβ二つ合わせて)10% サンタレン類はいずれもセスキテルペン類(C15)
エピ-β-サンタレン 6%
テレサンタラール(セスキテルペナール[アルデヒド類])

などからなっている。

現実に販売されている「サンダルウッド油」は、アミリス油、アラウカリア油、シダーウッド油、コパイバ油、はてはヒマシ油(これはそもそも精油ではない。脂肪油である。下剤だ!)がたいてい加えられているばかりか、流体パラフィン、グリセリルアセテート、ジエチルフタレート、ベンジルベンゾエート、ベンジルアルコール、ジプロピルアルコールも添加されているものが大半といってまちがいない。

あなたは、本もののサンダルウッド油を嗅いだことは、まだあるまい。一度本ものを嗅げば、市販のものとの差がどんなに大きいか一驚するだろう。一言でいえば、市販のインチキ品に比べてはるかにマイルドな香りなのだ。

業者が、マイソールの原木と同一植物を中国の雲南に、インドネシアに、オーストラリアその他の土地に植えただけだと言い張ってもだめだ。京野菜を関東地方に植えても、決して同じ味の、同じ歯ごたえの、同じみずみずしいあの京野菜には絶対にならないのと同じことで、植物学的にどうのこうのといおうと、嗅覚の世界、味覚の世界ではニセモノであるとしかいいようがない。

前記のものは、各種グレードのインチキ品を本ものだと言って売っているから犯罪的だといってまちがいないが、そんなことは最初からせず、“サンデラ、Sandela”とか“サンダローア、Sandalore”とかいう商品名で、最初から「ハイ、合成品でございます。その代りうんとお安くしておきまっせ」とヘラヘラ笑いながら、サンダルウッド油の類似品を販売している業者もいる。

それで満足できる人には、とやかくいうまい。
しかし、こんなしろものは絶対にアロマテラピーでは使用してはならない。百円ショップの「アロマオイル」と同じだ。

付記

・本もののマイソール産のサンダルウッド油は、いまはもう商業的には入手できないと考えておいてほしい。

・ アミリス油(Amyris balsamifera)は、それなりの効用があるちゃんとした精油なのに、(「84の精油」参照)これに「ウェストインディアンサンダルウッド油」などと詐欺的な名称をつけるのは道義的に許されぬ行為だ。

・オーストラリアンサンダルウッド(Fusanus spicatus)油なるものがある(別名Eucarya spicata)。
これもニセモノの一種だったが、いまではこれも哀れや乱伐の犠牲となって、現在ホンモノ同様入手不可能になってしまった。

・サンダルウッド油のニセモノが作りにくいのは、主成分のα,β-サンタロールの合成が困難なためだ。そこで、香りがかなり似たトランス-3-イソカンフィルシクロヘキサノールが一般に利用されているが、その薬理効果の問題は措いても、このせいで市販のサンダルウッド油が本もののサンダルウッド油の香りになかなか近づけないことも知っておいて欲しい。

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