2013年7月23日火曜日

アロマテラピー余話

アロマテラピーというコトバは、ラテン語のaroma(芳香、近頃は日本語にもなってしまった“アロマ”)と、therapeia(療法という意味の、もともとはギリシャ語に由来するテラペイアと発音するラテン語)とを一つに組み合わせて新しく造語された、20世紀生まれの新顔のフランス語である。

これらのラテン語から、長い年月をへて、aromaから“arôme(やはり芳香を意味するフランス語)”と“thérapie(これも療法という意のフランス語)”がしだいにつくられた。

しかし aromathérapie、アロマテラピーという新語はarômeとかthérapieとかと違って、フランス人のルネ=モーリス・ガットフォセという香料化学者で調香師であった人物が、「だしぬけに」、「人為的に」急造したコトバである。

この「アロマテラピー」が生まれるにあたって、一つの精油、すなわちラベンダー(Lavandula angustifolia var. angustifolia)の精油が重要な役割を果たしたことは、いまや伝説的な話にまでなっている。

これに関して、いくつか考えることがある。

◎研究室で、かなり大きな爆発事故をおこし、病院にかつぎこまれ、火傷を負った部分が壊疽(えそ)状態を呈するまで、どれほどの時間がかかったか。

◎また、壊疽をおこした部分に入院して2~3ヶ月後にラベンダー油を塗布したらしいが、火傷になった直後ならともかく、そんなに時間が経過して、ガス壊疽状態にまでなった患部に、果たして伝えられているほどの「めざましい効果」がほんとうに見られたのか。痕も残らなかった? それは到底信じられない。

◎「研究室で、彼がちょっとした爆発事故をおこし、片手に火傷を負ったが、そこにあった容器中のラベンダー油にその手を浸したところ、きわめてスピーディーに、痕も残らず火傷がなおった」という、いままで巷間伝えられていた話は、まったくの嘘だったことは、肉親(ルネ=モーリスの孫娘夫婦)の証言で明らかになっている。しかし、この夫婦も、その現場に居合わせたわけではない。すべては、ルネ=モーリス・ガットフォセの息子の故アンリ=マルセル・ガットフォセ博士からの伝聞であり、また聞きのまた聞きである。だから、夫妻のことばも100%信じるに足りるものではない。

◎2~3ヶ月も経ってからラベンダー油を患部につけたというが、そのラベンダー油が最初から病室においてあったはずはない。とすれば、正確なところ、ラベンダー油の適用をいつ、どうして思いついて、病室にまでもってこさせたのか。また、その精油の使用をそれまでピクリン酸を使って手当していた病院医はなぜ許可したのか。そのわけを知りたい。孫娘夫婦(モラワン夫妻)は、その辺をあいまいに答えていた。もっともっと、キッチリ、あまさず聞き出しておくべきだった。ここは、まさに私の責任だ。
この「火傷のアクシデント」については、これ以外にも確認しておくべきだった、と思うことがあるが、これについてはここでやめておこう。

しかし、28年前に私が初めて体系的にこの療法を日本に紹介したときは、この自然療法の提唱者、René-Maurice Gattefossé の名前がなんといっても無名人の悲しさで、その年々の話題を集めて解説した本(『知恵蔵』とか『現代用語の基礎知識』といった)でも、このアロマテラピー(アロマセラピー)の創唱者の名前を、有名な国立大学教授までが、ルネ=モーリスの名はともかく、ファミリーネームのGattefosséを、「ガテフォゼ」、「ガットフォス」、「ガット・フォス」などと平気で書いていた。いまでも、その残党がネット上などに生き残っている。

そして、ルネ=モーリスが、「比較病理学者」だったなどと解説している「識者」も多かった。

恐る恐るご注意申し上げると、「てめえ、いちゃもんつけるのか!」と、さすがに大手新聞社様の貫禄たっぷりにスゴマれたりもした。

でも、「自分たちは何でも知っている。何一つ誤ちは犯さない」という、その編集者様の満々たる自信に、うらやましさも覚えた。

しかし、aromathérapie(芳香療法)などというコトバ一つとってみても、 これが医学者とか薬学者とか、あるいは「比較病理学者」などが新しく開発した療法につける名前だと思うほうがフシギである。そんなささいなことを指摘してみてもつまらないから、私はいつも違和感を覚えながら、ただ「アロマテラピー」とだけいっていた。

ま、そんなことがCMなどで「アロマの香り」などというヘンテコなコトバを流させてしまった原因かもしれない。


この記事は参考になりましたか?

少しでも参考になればSNSでシェアしてもらうと嬉しいです。
   ↓ ↓ ↓

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

0 件のコメント:

コメントを投稿