バジル(Ocimum basilicum)油
バジルはシソ科の双子葉草本。一年草または多年草。亜低木化することもある。和名はメボウキという。この小さい種子を皿などに入れて水を注いで放置すると、寒天状の物質ができる。江戸時代に到来したハーブである。日本人はこの寒天のような物質を利用し、目に入ったゴミをとったり、かすみ目を治療したりした。そこで「目箒(めぼうき)」の和名がつけられた。イタリア料理でよく利用されることから、そのイタリア語名バジリコの名も日本で広く知られている。
原産地 熱帯アジア。しかし、現在では温暖な世界各地(フランス、米国、イタリアなど)で植えられている。日本でも最近では野菜としてスーパーマーケットなどで売っている。
・歴史 ギリシャでは、古くからこれを貴族などが香料として使ったので、ギリシャでbasilicon(バシリコン、高貴な、あるいは王の、の意)と呼んだ。ギリシャ語では「王」のことをbasilius,バシレウスという。しかし、アフリカの砂漠に生息し、ひと睨み、あるいはひと息で人を殺すという伝説上の爬虫類的な怪物、basilisk(バシリスク)との混同が生じ、この怪物の毒気を消す霊力のある草と信じられたりもした。Ocimumという属名は、以前にはOcymumと表わした。
ヨーロッパ、アフリカ、インドなどでは、昔から香味料、矯臭料、鎮咳薬、解熱薬として利用した。また、野菜としてサラダ・スープ・パスタ・ピザに使ってきた。メボウキ属にはいろいろな種類があるが、いずれも香味料とか薬用植物とかとして、人びとに活用される。
・精油 花が咲いた先端部分と葉とを蒸留して抽出する。いまではどうか知らないが、私がアロマテラピーを日本に紹介した当時(1985年)には、香料会社ではバジル油のことを「ベージル油」と称していた。スウィート感・清涼感・アニス様・花様の香りを持つ香水材料の一つとして使われる精油である。
・ケモタイプについて
スウィートバジル油(コモンバジル油) ー リナロールケモタイプ
エキゾチックバジル油 ー カンファー・エストラゴールケモタイプ
そのほか、メチルシンナメートケモタイプなどさまざまなものがある。
一般にスウィートバジル油を「バジル」油の代表格にしている。
・主要成分(%で示す)
スウィート種 エキゾチック種 メチルシンナメート種
1,8-シネオール 3〜27 3〜7 5.6
メチルカビコール 0〜30 68〜87 2.2
メチルオイゲノール 0〜7 0.5〜2.4 0
オイゲノール 0〜7 痕跡量 0
Z-メチルシンナメート 0 0 4.7
E-メチルシンナメート 0 0 32
リナロール 44〜69 0.3〜2.2 41.7
β-カリオフィレン 0.7〜14.4 0 0
(注)各種のケモタイプにより、また同じ種類のバジルでも、生育地により成分の変動はきわめて大きい。上記の値も、いちおうの目安ととっていただきたい。また、バジルはその各部位によっても、組成成分がそれぞれ異なる。
・偽和の問題
エキゾチックバジル油にはとくに、合成リナロールが加えられるケースが多い。
・毒性
LD50値 スウィートバジル油
ラットで1.4(<3.5)g/kg(経口)
ウサギで0.5g/kg(経皮)
刺激性・感作性
ヒトにおいて、4%濃度で、いずれもゼロ。
光毒性
報告例なし。
(注)メチルカビコールは感作性があることが疑われているので、人にもよるが、感作性を示す反応が生じることが考えられる。その他、フィジー産のメチルシンナメートケモタイプなどについては、まだ試験例がない。
・作用
薬理作用 in vitroでテストしたモルモットの回腸で、痙攣惹起作用を示し、ついで鎮痙効果を表わした。
抗菌効果 各種の細菌にたいして、強い抗菌力を示した例が、多く報告されている。蒸散させても、この力を発揮する。
抗真菌効果 スウィートバジル油は、広範な種類の真菌にたいして強力な効果がある。メチルカビコール分の多いバジル油もパワフルな効果を示す。
その他の作用 バジル油は、CNVの波形観察で脳への刺激作用があることが明らかになっている。なお、バジル油には抗酸化活性はみられない。