バラ油
バラ油と一口に言っても、さまざまな種類がある。
◎ ブルガリアン ローズ油、ダマスク ローズ油、ローズ オットー、ターキッシュ ローズ油(いずれも同じ種類のバラ油)
・学名 上記のバラはRosa damascena(ロサ・ダマスケナ〔ダマセナなどとは決して発音しないこと〕。ダマスクローズの意)
◎ フレンチ ローズ油、モロカンローズ油、キャベジ ローズ油(いずれも同じ種類のバラ油)
・学名 上記のバラはRosa centifolia(ロサ・ケンティフォリア、100も花弁をもつ〔これは大げさだが〕バラの意)
◎そのほかのバラ油 ガリカバラ油(これをフレンチローズ油としている人もいる)
Rosa gallica(ロサ・ガリカ) ガリカバラ(ガリア〔今日のフランス・スイス〕のバラの意)
Rosa alba(ロサ・アルバ) アルババラ(白バラの意)
バラはバラ科の双子葉植物で、落葉または常緑の低木。またはつる性の木本。
茎・葉にトゲが多い。北半球の亜寒帯から熱帯にかけて分布。200種の野生種がある。美しい香り高い花をつけ、香料の原料にもされる。
現在、私たちが目にするバラは、複雑な交配育種(ことに1800年以降の)の結果、つくられたものである。日本古来のバラとしてはノイバラ、テリハノイバラ、タカネバラ、ハマナスなど十数種があげられる。
精油 早朝(おそくとも午前10時ごろまで)に採取したバラの花を水蒸気蒸留して抽出。ブルガリアはバラ(ダマスクローズ)の名産地で、この地を支配していたトルコ人が持ち込んだものである。
アブソリュート ベンゼン、アセトン、四塩化炭素、石油エーテルなどの有機溶剤にバラの花弁を浸し、花のワックスと芳香成分とが一体になった「コンクリート」をつくり、これを78℃で沸騰するエチルアルコールで蒸留してアブソリュートを得る。アブソリュートは、最終産物に発ガン性溶剤が残るため、原則としてアロマテラピーでは用いられない。
・主要成分(%で示す) 各種のバラの大まかな目安と考えて頂きたい。
バラ油 バラアブソリュート
シトロネロール 18〜55 18〜22
ゲラニオール 12〜40 10〜15
ネロール 3〜9 3〜9
フェニルエチルアルコール 1〜3 60〜65
ステアロプテン 0 8〜22
微小成分(精油・アブソリュート)
ローズオキシド 0.1〜0.5
β-ダマスコン 0.01
β-ダマスケノン 0.14
β-イオノン 痕跡量〜0.03
注 バラ油には、少なく見積もっても300種もの成分が含まれている。
そのうち、わずか0.14%しか含まれていないβ-ダマスケノンが、あのバラのいかにもバラらしい香りのもととなっている。
・偽和の問題
精油にせよアブソリュートにせよ、バラは市場でもっとも高価なものの一つなので、偽和の技術も巧妙を極めていて、看破するのは容易ではない。偽和には、数多くの合成化学物質が用いられ、少量の真正成分を大幅に増量させている。いずれも合成したフェニルエチルアルコール、ジエチルフタレート、シトロネロール、ゲラニオール、イソオイゲノール、ヘリオトロピン、シクラマール、アミルサリチレートが多量に加えられ、さらにゼラニウム油からとったロジノールなども添加したものが「バラ油」と称して売られているものの大半だ。まず日本では100%純粋なバラ油というものは、もはや入手不可能だと思っていただきたい。
アブソリュートもパルマローザ油の成分(というか、やはり合成したもの)、ペルーバルサム油、コスタス油、クローブ花芽油などを加えて偽和するのが、当然のように行われている。
ローズオットーも、最初に蒸留した真正バラ油と、再留したバラ油とを組み合わせてフェニルエチルアルコール分を大幅に水増ししてあるのがふつうである。「バラ油」にせよ、「バラ アブソリュート」にせよ、薬効を期待するならもっとずっと安価な別の精油を利用した方が、フトコロも痛まないし、体にも良いだろう。
・毒性
LD50値
Rosa damascena および R. centifoliaの各精油では
ラットで>5g/kg(経口)
ウサギで2.5g/kg(経皮)
Rosa centifoliaのアブソリュートでは
ラットで>5g/kg(経口)
経皮値は定かでない。
刺激性・感作性
ヒトにおいて2%濃度で認められず(精油・アブソリュートの双方とも)。
光毒性
報告例なし。
・作用(もちろんホンモノでなければ、いわゆる「効果」など論じるのはナンセンスである)
薬理作用 各種のバラ油・アブソリュートで、モルモットの回腸においてin vivoで鎮痙作用が認められた。
抗菌効果 ブルガリアのカザンリク産のRosa damascenaで若干の抗菌作用が確認されている。
抗真菌効果 報告例なし。
その他の作用 バラ油はマウスの活動に一切影響を及ぼさなかった。CNVでも特段の鎮静ないし刺激効果は示さないことがわかった。
この精油は女性の冷感症と男性のインポテンスに有効と言われるが、正確なデータに基づいた報告ではない(第一、このような秘事の正確なデータなど、どうすればとれるというのだろう)。
また、この精油は女性特有の各種疾患に有効だとされるが、あまり大げさに受け止めるべきではないと思う。理由は、おおむね上に述べたことと同様である。