2014年2月6日木曜日

精油の化学⑪ オキシド類

オキシド類
  ・効果① ー 去痰作用
     ② ー 抗寄生虫作用
     ③ ー 気管支・肺疾患治癒作用
     ④ ー 粘液分解作用
     ⑤ ー うっ血除去作用
 
 ◎注意
  私たちがもっともよく精油の世界でであうオキシドといえば、ユーカリ類でおなじみの1,8-シネオールである。各種のオキシドは、それぞれの化学構造によって、おのおのに相当した特異的な作用を発揮する。この点に配慮すること。
 
 ◎オキシド類を多く含有する精油類
  ヘノポジ(別名 アメリカンワームシード、ケノポジ〔ウム〕、ワームシード、アメリカアリタソウ)(Chenopodium ambrosioides var. anthelminticum)油
   アカザ科の草本だが、日本などのアカザとは異なって毒草である。
   これはヨーロッパの庭園などによく雑草として生えている。私が英国のノーフォーク州のラベンダー園を見学したとき、ラベンダー園の園長は、「この大型の草がいたるところ(everywhere)に生えてやっかいでねぇ」といいながら、この草をひっこぬいていた。この草は毒草だが、むかしのヨーロッパ人は、これを人体に害を及ぼさぬ程度に浸剤・煎剤にして服用し、虫下しにしていた。ワームシードの”ワーム”は「腹のなかの回虫」の意味である。
  カルダモン(Elettaria cardamomum)油
   ショウガ科の草本(偽茎)。この種子から蒸留抽出する。テルペンオキシドとして、1,8-シネオールを40〜45%も含む。カルダモンは、インド・スリランカ・インドシナなどに野生。インド人、古代エジプト人、ローマ人などに香味料として、また薬品として使われた。これの精油が多くの人にヨーロッパで用いられるようになったのは、1540年代半ばごろからである。
  ユーカリ(Eucalyptus globulus)油
   フトモモ科の大高木で、オーストラリアとその周辺が原産地。しかし、現在日本で販売されているのはほとんどスペイン産ユーカリ(木はせいぜい高さ40メートルぐらいにしかならない。オーストラリアでは樹高が140メートル以上にもなる。ユーカリにはこのほかにもおよそ600種の種類がある。コアラがその葉を食べるのはそのうちたったの10数種類にすぎない)。globulus種のユーカリのなかのテルペンオキシド(1,8-シネオール)は、70〜75%に達する。
  ユーカリ ラディアータ種〔シネオールケモタイプ〕(Eucalyptus radiata ssp. radiata cineolifera)油
   ユーカリの1種で、葉を蒸留して得る。テルペンオキシドである1,8-シネオールの含量は62〜72%。そのほか、ウンベリエポキシシクロモノテルペン、カリオフィレンオキシドが含まれる。
  スパイクラベンダー(Lavandula spica〔latifolia〕)油
   シソ科のこの低木の花の咲いた先端部分を蒸留して得る精油。テルペンオキシド類として、1,8-シネオール(25〜38%)、カリオフィレンオキシド、シスおよびトランス-リナロールオキシド(それぞれ痕跡量〜25%および0.1〜1.5%を含む)。
  カユプテ(Melaleuca cajuputii)油
   フトモモ科のこの大木の葉を蒸留して抽出。テルペンオキシドの1,8-リナロールがこの主要成分。マレーシア、インド、中国などでむかしから家庭薬として、胃の障害、皮膚病などの万能薬的な存在とされてきた。これには、今の日本人がもっとも気にしている放射能から人体を保護する働きがあるらしい。今後の専門家たちのこの精油についての研究に期待するところ大。
  ローズマリー〔シネオールケモタイプ(Rosmarinus officinalis cineoliferum)油
   1,8-シネオールが主要成分。ベルベノンケモタイプ油は、1,8-シネオール含量が痕跡量ないし20%。
  ローズマリー ピラミダリス種(Rosmarinus pyramidalis)油
   1,8-シネオールの含量は多い。
  セージ ラワンドゥラエフォリア種(Salvia lavandulaefolia)油
   あまり入手は容易ではないが、このシソ科低木の花の咲いた先端部分を蒸留して抽出した精油も、テルペンオキシドの1,8-シネオール含量は32%と多い。
  スパニッシュマージョラム 〔シネオールケモタイプ(Thymus matrichinus cineoliferum)油
   1,8-シネオールの含有量は、55〜75%と多く、ほかにカリオフィレンオキシドも微量ながら含んでいる。
 
 ◎主要なオキシド類
  アスカリドール(ヘノポジ油に40〜80%も含まれ、これが強力な駆虫作用を発揮する)
  ビサボロールオキシド
  1,8-シネオール
  メントフラン
  ピペリトンオキシド
  サフロール 

2014年2月1日土曜日

ホワイトカンファー、ブラウンカンファー、イエローカンファー、ブルーカンファー(樟脳)|精油類を買うときには注意して!⑤

カンファー(Cinnamomum camphora)油

いまでこそ「カンファー(クスノキ)」という、あまり利用されなくなったこのクスノキ科の木の精油だが、江戸時代は、これが陶磁器や漆器(しっき)などとともに、オランダ語で「ヤーパン・カンフル(日本樟脳)」と称されて、対オランダ貿易品の花形の一つであった。これは薬品とされ、とくに心臓を強壮にする働きで有名。心臓病などで倒れた人を起死回生させる薬として、急いで「カンフル」注射を打ったなんていう表現はお聞きになったことがあるでしょう。
 
オランダに輸出されたといっても、この精油そのものを船積みしたわけではない。輸出されたのはC10H16Oという式で表わされるこの精油を冷却すると析出してくる無色透明の光沢のある結晶体すなわち樟脳で、ツーンとする特異な芳香を発する。
 
これは水には不溶、アルコール、エーテルなどに溶ける。
無煙火薬、後世のセルロイド(ニトロセルロースとカンファーとをアルコールを加えて加熱成型したプラスチックの一種)の原料になり、防虫剤、防臭剤、医薬としてもひろく活用された。
 
むかしは今日のように石油由来のプラスチック製品などなかったので、鉛筆箱、定規などの文房具によくセルロイドが用いられた。幼い私はこわれたセルロイドの玩具などを削って、アルミ製の鉛筆キャップにつめ、末端を潰し、それをストーブの上などに置いたり、ロウソクの炎で加熱したりした。すると、そのキャップは後部から白い煙を勢いよく出して、空中を飛翔(ひしょう)したものだった。糸川博士らの「ペンシルロケット(1955年)」より7〜8年も前の話ですよ。
 
失礼、うっかり私自身のむかしの話になってしまった。
カンファー(クスノキ)の原産地は中国。いまでは中国のほか、日本、台湾などにもこの木が(日本では関東以南)生えていて、カンファー油の生産も規模も小さくなったが、今も続けられている。
 
原油は結晶カンファーを含んでいる。これをフィルタープレッシングというプロセスで除去する。ついで、これをヴァキュームレクティファイイング(真空精留)すると、最高品質の①ホワイトカンファー油に加えて、以下②、③、④の各留分が得られる。
 
①ホワイトカンファー油
 無色から淡黄色。分留工程で沸点は低く、比重は小(つまり軽い)。
 フレッシュでシャープなしみとおるような香り。アロマテラピーではもっぱらこれが使用される。これには、有毒なサフロールは含まれていない。
②ブラウンカンファー油
 これは少なくとも80%のサフロールを含む。サフロールはきわめて毒性が強い成分だ。発ガン性、神経毒性を有する。ウサギにおいて、サフロールの最小致死量は10g/kg(経口)。マウスに胃管注入したケースでは肝臓に発ガンがみられた。米国では1961年に、サフロールを食品に添加することを禁じている。
これはサッサフラス油と同様の特徴的な香りが特色である。
③イエローカンファー油
 これは前記のブラウンカンファー油からサフロール分を抜いたものだが、サッサフラス臭が強い。これも場合によりアロマテラピーで用いられることがあるが、あまり感心できない。およしなさい。
④ブルーカンファー油
 これは、比重のもっとも大きな精油で、各種セスキテルペンを含む。これもアロマテラピーではめったに用いない。
 
 
 ・主要成分(%で示す) <これはホワイトカンファーの場合>
  1,8-シネオール     30.2%
  α-ピネン        6.8%
  カンファー       50.8%
  テルピネオール     2.1%
  セスキテルペン類    各種(原料植物の産地により変動がある)
 
 ・この精油の偽和の問題
  この精油は価格も安いため、あまり偽和されることはないと考えてよい。ただ、この精油の成分は、100%天然とはいっても、原木の産地によって大きな差があることに留意していただきたい。
 
 ・毒性
  LD50値(半数致死量)
   ホワイトカンファー ラットにおいて、>5ml/kg(経口)、ウサギにおいて、>5ml/kg(経皮)
   イエローカンファー ラットにおいて、4g/kg(経口)、ウサギにおいて、>5g/kg(経皮) 
   ブラウンカンファー ラットにおいて、2.5ml/kg(経口)、ウサギにおいて、>4ml/kg(経皮) 
 
  刺激性/感作性は、ホワイトの場合、ヒトでは濃度20%、イエローでは濃度4%で、ブラウンだと濃度4%でそれぞれ認められない。
  光毒性は、いっさいない。

 

 ・効果
  ー 鎮痙作用(強力) 小腸の蠕動運動の活性化作用。モルモットの回腸におけるin vivoでの観察結果より。また、イヌの小腸でもその蠕動運動を強力にし、その律動性を向上させた。
  ー 抗菌作用 ホワイトカンファーはさまざまな種類の細菌にたいして強力な殺菌力を示す。
  ー 抗真菌作用 ホワイトは、多くの真菌に有効。
  ー その他の作用 キャリヤーで稀釈して、鼻腔に塗布して鼻づまりに用いたり、筋肉組織にすりこんで血流をよくして老廃物の除去を促したりすることはひろく行われている。
 
30年ほど前に、ジャン・バルネ博士の著書を読んだとき、博士が日本樟脳油の毒性・危険性を強く訴えていたことを思いだす。
博士の見解には異議もあるが、たしかに小児や妊婦などは、ホワイトカンファーといっても、これを多用しないほうがよさそうである。

2014年1月23日木曜日

精油の化学⑩ モノテルペン類

モノテルペン類
 モノというのはC原子が10個ある化合物の意。
 
  ・効果① ー コルチゾン様作用
    コルチゾンとは、コーチゾンとも呼び、副腎皮質ホルモンの1種である(コルチゾン様とは、それに類似した効果を示すということ)。糖代謝を促進し、血糖を増加させ、リンパ系の作用を弱める力をもつ物質。医薬品として、その誘導体ヒドロコルチゾンが利用されている。これは、アディソン病、結膜炎、関節リウマチなどに用いる。長いこと使うと、浮腫、高血糖症などの副作用が生じる。
     ② ー 空気中の細菌を殺す作用
     ③ ー 心身の刺激作用
     ④ ー 強壮作用
     ⑤ ー 充血作用
     ⑥ ー リンパ系活性化作用
 
 ◎注意すること
  この成分が皮膚焼灼(しょうしゃく)作用を示すことがあるので要注意。とくに、ピネン、パラシメンおよびリモネンにその効果が著明。にもかかわらず、その殺菌力は比較的弱い。
 
 ◎モノテルペン類を多く含有する精油類
  アンジェリカ(Angelica archangelica)油
   このセリ科の草本(北欧・アイスランド・グリーンランド・中部ロシアなどの水の多いところを好む植物)の種子と根とから蒸留抽出する精油。
  レモン(Citrus limon)のエッセンス
   カンキツ類のミカン科の果樹の果実の果皮を圧搾してとる。リモネンというモノテルペンを、52%ないし80%も含む。
  スウィートオレンジ(Citrus sinensis)のエッセンス
   ミカン科の果実の果皮を圧搾抽出したもの。モノテルペン類をおよそ80%含有する。
  サイプレス(別名イタリアイトスギ)(Cupressus sempervirens)の精油
   ヒノキ科の木本の葉・毬果・葉のついた小枝を蒸留して得る。モノテルペン類としては、α-ピネン(45.5%)、δ-3-カレン(25.5%)を含んでいる。木部のみを原料とする場合もある(これはフェノールメチルエーテルに属するカルバクロールメチルエーテルの含量が多くなる)。
  ジュニパー(Juniperus communis)油
   ヒノキ科の木本。これは、その液果のついた小枝を蒸留して得る。非常に多量のモノテルペンを含んでいる(α-ピネンを40〜90%、β-ピネンを1.5〜4%、サビネンを10〜40%、リモネンを含有)。
  フランスカイガンショウ(Pinus pinaster)の精油
   マツ科の木本。オレオレジン(含油樹脂)または樹皮あるいは針葉を蒸留して抽出する。針葉由来のものは、αおよびβ-ピネン、δ-3-カレン、テルピノレンを含み、樹皮由来のものはモノテルペンの含量はきわめて少量で、オレオレジン由来のものはαおよびβ-ピネンをおのおの63%および27%含む。
  スコッチパイン(Pinus sylvestris)油
   マツ科の木本の針葉を蒸留して抽出。モノテルペンとしては、αおよびβ-ピネンを、それぞれ40%および13%、リモネンを20〜30%含む。
  マスティックス(Pistacia lentiscus)の精油
   ウルシ科の木本のついた小枝から蒸留抽出する。モノテルペンとしてはα-ピネン(6.5〜20%)、ミルセン(4〜15%)、サビネン(1.5〜15%)、δ-3-カレン(0.3〜0.8%)を含んでいる。
  テレビンノキ属(Pinus sylvestris、P. palustris、P. maritima)油
   このマツ科木本類の松脂、すなわちターペンタインを蒸留するとテレビン油が抽出される。これは各種のモノテルペンをそれぞれ多量に含有している。
  タイム パラシメンケモタイプ(Thymus vulgaris paracymeniferum)油
   シソ科の小低木。パラシメンを主要成分とし、さらにγ-テルピネンを含む。
 
 ◎主要なモノテルペン類
  α-ピネン     リモネン
  β-ピネン     ミルセン
  カンフェン    パラシメン
  カレン      フェランドレン
  シメン      サビネン
  ジペンテン    テルピネン

2014年1月14日火曜日

カユプテ(カヤプテ、カジュプト)| 精油類を買うときには注意して!④


カユプテ(カヤプテ、カジュプトなどとも呼ばれる) 
 
このフトモモ科の常緑高木には種類がいくつかあり、それぞれ学名が異なる。
Melaleuca leucadendraM. cajuputiiM. linariifoliaなど。この木の小枝・新鮮な葉を蒸留したものが、カユプテ油である。
 
 原産地はインド、ベトナム、インドネシア付近と考えられている。
 
 ・主要成分(%で示す)
  1,8-シネオール     14〜69%
  α-ピネン        8.0%
  β-ピネン        1.1%
  リモネン        痕跡量
  リナロール       3.5%
 
 ・この精油の偽和の問題
 「カユプテ油」というラベルが貼ってある精油びんを見ても、すぐ信じてはいけない(何事も無批判に信じるものは救われない)。
 カユプテ油だと称して、もっとずっと安価に手に入るユーカリ(Eucalyptus globulus)油を売るものも多くおり、またユーカリ油をベースにして、ここに少量の合成したテルピニルアセテート、テルピニルプロピオネート、各種テルピネオールエステルを混入させたニセものを販売する輩(やから)もいる。よくよく注意して頂きたい。
 同じフトモモ科の木の葉からとるニアウリ(Melaleuca quinquenervia)油は、このカユプテ油ときわめてよく似た成分構成をもつが、値段はほぼ同じである(しかし、ニアウリ油には、シネオールケモタイプとネロリドールケモタイプとがあり、両者には成分の差、したがってその特性の差があることをお忘れなく)。
 
 ・毒性
  ラットだとLD50値は4g/kg(経口)、ウサギの場合、>5g/kg(経皮)
  刺激性/感作性は、ヒトの皮膚に濃度4%で適用したが、これらはいずれも認められなかった。
  光毒性は、いっさいない。
 
 ・効果
  ー 弱い鎮痙作用 モルモットの回腸で、弱い鎮痙作用を示した。
  ー 抗菌作用 ひろいスペクトラムの抗菌作用がある。直接皮膚につければもちろんのこと、これを室内などに蒸散させても、空気中の細菌を殺す、かなり強力な力を示す。
  ー 抗真菌作用 真菌の種類にもよるが、多かれ少なかれ真菌の増殖を抑制したり、殺したりする作用がある。
  ー 抗酸化作用 ないといってよい。
 
カユプテ油は、内用すると(0.05ml〜0.2ml)駆風作用を発揮する。つまり腸内にたまったガスを屁として出してくれる。また、この精油を外用すると、穏和な発赤作用を示す。この効果があることから、カユプテ油は、打ち傷や捻挫や擦過傷(すり傷)などのためのいろいろな塗布剤によく配合されている。「発赤(ほっせき)」というのは、血液が特定の部分の皮膚の下に集中することで、これによって傷害の治癒が促進されるわけである。
 

2014年1月6日月曜日

精油の化学⑨ エーテル類

 ◎エーテル類
  ・効果① ー 非常に強力な鎮痙作用
     ② ー 神経平衡回復作用
     ③ ー 鎮痛作用・不安緩解作用
     ④ ー 抗うつ作用
     ⑤ ー 抗アレルギー作用

 ◎注意
  エーテル類は、エステル類にきわめて類似した作用を示すが、人間をリラックスさせる力は、さらに強力である。

 ◎エーテル類を豊富に含む精油類
  エストラゴン(別名タラゴン)(Artemisia dracunculus)油
   キク科のこの草本の花の咲いた全草を蒸留抽出した精油。ジャン・バルネ博士は「(エストラゴンは)ヨモギ属の食用草本で非常にすばらしい香味料であり、必要な場合に、塩、ペッパーおよびビネガーの代用もつとめられる」と述べ、この精油にしゃっくりをとめるパワフルな効果があることを自分が扱った実例をあげて示している。この生の葉をハーブとして食べても同じ効果があるそうである。
  バジル(Ocimum basilicum)油
   バジルにはいくつか種類があるが、O. basilicum var. "grand vert"(グランベール変種)、O. basilicum var. minimum(ミニマム変種)、O. basilicum var. “feuilles de laitue”(「レタス葉」変種)の花の咲いた全草を蒸留して得る精油がいずれも利用される。

 ◎主要なエーテル類
  カルバクロールメチルエーテル
  メチルカビコール
  メチルオイゲノール
  ミルテノメチルエーテル
  チモールメチルエーテル 

2013年12月24日火曜日

カモミールローマン・カモミールジャーマン| 精油を買うときには注意して!③

 カモミール(ローマン)(Chamaemelum nobile)油
  カモマイルとも発音する(英国ではこれがふつう。英国ロンドン付近が原産地とは意外な感じもする)。しかし、米国人の多くはカモミールと呼ぶようだ。カモミールを和製英語とカンちがいをしていたさる博学の方がおられたので念のため。
  このハーブは江戸時代から知られており、蘭学者たちはこれをオランダ語のKamille(カミッレと発音する)を音写して「カミツレ」と書いた。江戸時代には促音を現代のように小さい「ッ」で表わすことを人びとはしなかったので、こう蘭学者たちは表記した。元の正確な発音を知らない人びとは、これを文字どおり「カ・ミ・ツ・レ」と読んだ。のちに、それがさらに変化して「カミルレ」などと記されるようになった。
また、これをカモミラなどという人もいる。
 
 ・主要成分(%で示す)
  メチル-アンゲレート            16%
  3-メチルペンチルイソブチレート      12%
  2-メチルブチルアンゲレート        4〜25%
  メチル-アンゲレート-3-メチルペンチル    16%
  イソブチレート               12%
 
 カモミール(ジャーマン)(Matricaria recutita)油
  シス-スピロエーテル            1%
  カマズレン                 1〜18%
  α-ビサボロールオキシドB           11%
  α-ビサボロールオキシドA           9〜23%
  α-ビサボロール              10%
  ファルネセン               15〜28%
 
 一般にジャーマンカモミール油のほうが高価。濃青色の青インクのような色。ただし、これは時間の経過とともに、色が薄れていく。この色は、これに含まれるカマズレン分のためである。ジャーマンカモミールの原産地はその名の通りドイツ辺りが原産地である。
 
 ・偽和の問題
  ジャーマンカモミール油として売られているものには、合成したカマズレンを入れた製品がある。こうすると、天然のものよりずっと安あがりにできるからだ。一部の業者はジャーマンカモミールから溶剤でアブソリュートを抽出している。すると非常に粘性が高いアブソリュートがとれる(この溶剤は人体に危険をもたらす)。そして、ここにうんと安ものの化学合成物質類を加えると、もっともらしいジャーマンカモミール油が多量にできあがるというわけである。また、良心的なジャーマンカモミール油も、棚おき期間が長いと、さきにものべたようにカマズレンが変化して、精油はブルーから濃緑色に変ったり、茶色になったりする。こうした加齢油は当然ながら薬効がぐんと落ちる。しかし、精油のびんが褐色だとなかなかその変りようがわからない。何とかして中身を見せてもらうように、販売者と交渉するしか方法がないが、これは出来ない相談かもしれない。
 
 ジャーマンカモミールは、現在アルゼンチンで野草としてたくさん生えていて、採取する人もいない。もったいない気もする。これには、こんなわけがある。第二次大戦でナチスを支持したドイツ人(民間人のみならず軍関係者も含む)をローマ教皇庁(教皇庁が戦時中、600万のユダヤ人その他の大虐殺を黙認し、ナチスに実質的に協力したことを忘れてはならない)がこっそり援助し、アイヒマン(ナチスのユダヤ人絶滅計画の実行責任者)を含む多くの旧ナチス関係者を助けて、金銭・旅券・難民証まで与えて、彼らを、親ナチス派のペロン大統領が君臨していた南米アルゼンチンに逃げこませて、彼らを保護させた。
アルゼンチンはカトリックが国教で、国民の95%がカトリックの信者だ。ローマ教皇猊下(げいか)の仰せとあらば、大統領は何でもした。
このナチスの残党どもの旅行カバンのなかにはジャーマンカモミールの種子が知らぬ間にたくさん入っていた。これが、こぼれこぼれてアルゼンチンの山野にひろく一面に花を咲かせ、はしなくもナチスの言語に絶する悪業のしるしを残したということである。風にそよぐジャーマンカモミールの花には何の罪もないのだが。もし芭蕉がそうした事情を脳裏に浮かべつつ、この風景を眺めたら、どんな句を作っただろうか。
 
 ・効果
  ジャーマンカモミール油は、含有するα-ビサボロールとビサボロールAおよびBのため、またシス-スピロエーテルのためにモルモットの回腸で鎮痙作用を示すことがわかっており、ローマンカモミール油にも同様の効果がある。
 
  抗菌作用
   ジャーマン・ローマンともにこの作用があることが判明しているが、その力は弱い。抗真菌作用もあるが、これも特筆するほどでない。抗酸化作用がジャーマンには認められる(ローマンにはない)。ジャーマンにもローマンにも鎮静作用があり、これはCNV(随伴性陰性変動)によってわかる。
 

 

 なお、ジャーマンもローマンも比較的、精油としては高価だが、ヨーロッパではこれらのカモミールはハーバルティーとして多く使われるためだ。ローマンのハーバルティーには鎮静効果があり、ジャーマンのハーバルティーには抗炎症作用があるので、これで患部に湿布すると有効。また、寝つきの悪い人間にはどちらのカモミールティーも卓効がある。マリア・リズ=バルチン博士によると、12人の不眠症の人間にこれらのティーを飲ませたところ、10人までが10分後に入眠した。そして、深い眠りが90分あまりもつづいたそうである。 

2013年12月17日火曜日

精油の化学⑧ エステル類

 ◎エステル類
  ・効果① ー 抗痙攣作用
     ② ー 鎮静作用
     ③ ー 強壮作用
     ④ ー 神経平衡回復作用
     ⑤ ー 不整脈正常化作用

 ◎特徴
  精油類のなかに存在する各種のエステルは、その精油中のアルコール類の量にそれぞれ規則的に対応した分量で含有されている。ここに注意すること。

 ◎エステル類が豊富な精油(エッセンス)類
  ローマンカモミール(Chamaemelum nobile)油
  ビターオレンジ(別名ビガラディアオレンジCitrus aurantium ssp. amara)エッセンス
   ミカン科のこのオレンジの果皮を圧搾(熱を加えない冷搾法で)して抽出したエッセンス。各種のエステルを含んでいる。
  ヘリクリスム(Helichrysum italicum serotinum)油
   キク科のこの草本の花の咲いた先端部分を蒸留してとる精油(アブソリュートを抽出することもある)。この精油はエステル分としてネリルアセテートを75%も含有する。ネリルブチレートも含む。
  真正ラベンダー(Lavandula angustifolia)油
    少なくとも40%、最高で60%ものリナリルアセテートを含む。
   ヨーロッパのAFNOR規格(日本のJAS規格とJIS規格をあわせたようなもの)ではこのリナリルアセテート分が少ないと、ラバンジン油とみなされてしまう。
   日本の秋田県で試験的に植えた真正ラベンダーでも60%ものリナリルアセテートを含んでいた例が報告されている。
  ラバンジン(Lavandula hybrida)油
   真正ラベンダー(L. angustifolia)とスパイクラベンダー(L. spica, L. latifolia)との属間交雑種で、2代めができないラベンダーの一種であるため、すべて挿し木で畑に植える。現在、フランスでは真正ラベンダーは10%ぐらいしか栽培されておらず、それよりずっと育てやすく、収油率もはるかに高いラバンジンが90%も植えられており、真正ラベンダー油の生産量は以前にくらべて、大幅に少なくなってしまった(現在、真正ラベンダーがもっとも多く植栽され、その精油の生産量も世界一なのは、ブルガリアである)。ラバンジンも何種類かあり、リナリルアセテート、ボルニルアセテート、ラバンズリルアセテート、ゲラニルアセテート(それぞれの量はシュペール、アブリアリス、グロッソなどラバンジンの種類によってかなり差異がある)を含んでいる。
ラベンダーの畑として紹介されている写真は、ほとんどがラバンジンのものである。
ピュアな真正ラベンダー油と称していながら、真正ラベンダーの精油にラバンジン油を混ぜて増量したものは、なかなかGC/MS(ガスクロマトグラフィー/マススペクトロメトリー)で検査しても見分けることは難しいため、この偽和はいちだんとタチが悪い。


 ◎主要なエステル類
  ボルニルアセテート(酢酸ボルニルともいう。以下同様)
  ゲラニルアセテート
  ラバンズリルアセテート
  リナリルアセテート
  メンチルアセテート
  ミルテニルアセテート
  ネリルアセテート
  テルペニルアセテート
  イソブチルアンゲレート(アンゲリカ酸イソブチル)
  ベンジルベンゾエート(ベンジル酸ベンジル)
  シトロネリルフォルミエート(蟻酸シトロネリル)
  ゲラニルフォルミエート(蟻酸ゲラニル)
  メチルサリチレート(サリチル酸メチル)