メリッサ(Melissa officinalis)油
メリッサは、セイヨウヤマハッカ属のシソ科の多年草。地中海沿岸地域からユーラシア大陸東部にかけて、数種が分布する。寒さに強い植物である。
学名 Melissa officinalis
別名 レモンバーム、ビーバーム、和名 セイヨウヤマハッカ、コウスイハッカ、メリッサソウ
産地 原産地はヨーロッパ南部。現在の主要産地はフランス。しかし、英国その他の土地でもひろくみられる。
特色 草全体に芳香がある。香味料として、サラダやスープなどの香りづけに利用される。メリッサはハーバルティーとしてもヨーロッパで愛飲され、またこれが、頭痛・歯痛止めに、さらには発汗を促すために薬用された。
精油の抽出 葉とこのハーブの先端部分、さらに茎部もあわせて水蒸気蒸留して得る。しかし、このハーブは水分ばかり多く含んでいて、エッセンスの分泌腺が極端に少ないので、非常に多量の原料からごく少量の精油しかとれない。もっぱら香料として使われる精油である。
・主要成分(%で示す)マリア・リズ=バルチン博士は、2カ所の蒸留所で試験的に抽出したメリッサ油の組成成分を次のように示している。
A蒸留所のメリッサ油 B蒸留所のメリッサ油
β-カリオフィレン 11.7 29.0
ゲラニアール 25.0 17.3
ネラール 15.3 10.9
シトロネラール 24.6 2.2
フムレン 0 2.1
γ-カジネン 0 2.1
以上は、それぞれにメリッサの精油の組成成分の比率が、その原料植物の生育地によって大きく異なることを示している。どちらも、いっさい化学合成物質を入れたりしていない真正メリッサ油である。
市販品は99.9%まで化学合成物質ないし別の植物に由来する精油を加えて増量したニセモノと考えられるので、分析すればどんな成分が、どれほど検出されるか知れたものではない。真正メリッサ油の価格は真正のバラ油と同じくらいと心得られたい。つまり同じ重さの黄金と同価格だということだ。
・偽和の問題
上述したように、メリッサ油は莫大なコストをかけても、ほんの少量しか原料から得られないために、真正メリッサ油は極めて高価である。市販の「メリッサ油」と称するものは、ほとんどが化学合成した成分のブレンド品か、さもなければレモンエッセンス、レモンバーベナ(Lippia citriodora)油、レモングラス(Cymbopogon citratus)油、シトロネラ(Cymbopogon nardus)油のうち1種ないし複数の精油の留分をごく少量の真正メリッサ油にたっぷり加えて増量したものかのいずれかである。つまりニセモノということだ。
・毒性 真正のメリッサ油の正確な信頼のおけるデータは残念ながらまだ得られていない。インチキ市販品などを用いてテストしてもナンセンスである。
LD50値 データなし
刺激性・感作性 データなし
光毒性 データなし
注)もっともらしい研究結果報告に接したこともあるが、それが真正メリッサ油を用いたという、信じるに足りる証明がないかぎり、私たちは信じるべきではない。
一般にメリッサ油は、過度に速い呼吸と心拍を鎮め、月経周期を規則的にする効果があるとされる。だが、それはその精油がホンモノだという確証がなければ、いずれも説得力がない。
・作用
市販のあるブランドの「メリッサ油」は、モルモットの回腸で(in vitroで)弱い鎮痙作用を示した。しかしこのメリッサ油が真正品だという保証はないので、真正メリッサ油の作用として、これをあげるわけにはいかない。
また、抗菌作用についても、抗真菌作用についても、書店のHow to本にもっともらしく書かれているものは、およそ信頼に値しない。
さらにメリッサ油には、抗ウイルス特性があるなどというデタラメな報告もなされたことがあるが、絶対に真に受けないでほしい。
ハーブとしてのメリッサを利用すれば、確かに抗ウイルス効果があるが、それはこのハーブをハーバルティーとして用いたときに出てくるタンニンの効果である。タンニンは水溶性成分であるために精油中には含まれない。したがってメリッサ油を蒸散させても、空気中のウイルスを殺したりすることは不可能である。まず「メリッサ油」は敬遠なさったほうがよい。香料としてならともかく、アロマテラピー用にこれを買う人の気が知れない。
・ハーブとしてのメリッサ
アロマテラピーではないが、メリッサを乾燥させてハーバルティーとして飲用すると、駆風作用があり、心身をリラックスさせることが経験的に確かめられている。英国などでは干したメリッサを枕につめて安眠を促すために用いた。どれほど実効があったか疑問だが。なおメリッサは別名レモンバームというが、これをクマツヅヅラ科のレモンバーベナ、同じくクマツヅヅラ科のバーベイン(Verbena officinalis)と混同しないでいただきたい。
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