ミント類
ミントはシソ科のハッカ属の一年草または多年草。40もの種類があるが、どれにも強弱の差こそあれ、芳香がある。北半球の温暖な地域に広範に分布している。ハッカの仲間は古来有名で、古代エジプト、古代ローマでも香味料、薬剤原料として利用された。新約聖書でも、これについての言及がある。
ミント類でとくに有名なのは、ペパーミント、スペアミント、コーンミント(別名 ジャパニーズミント)である。そのほかベルガモットミント、フィールドミント、ホースミントなども広く知られている。現在、ミント類の主要生産国は、米国と南米である。
ペパーミント 学名 Mentha x piperita L.
セイヨウハッカとも呼ばれる。ヨーロッパに生育する多年草で、ベルガモットミント(M. aquatica)とスペアミント(M. spicata)との自然交雑によって生じた。これは各地で栽培される。草丈は30〜40cm。茎の先端に紫または白色の穂状の花序をつける(ここが、ジャパニーズミントすなわち和種ハッカとの外観上の大きな相違点)。花は8〜9月ごろ咲く。この花の咲いた先端を蒸留してとった精油は、チューインガム・洋菓子・ゼリーの香料にされ、練り歯磨き・化粧品の賦香にも利用される。また、薬剤として強心剤・興奮剤などとしても用いられる。
スペアミント 学名 Mentha spicata L.(別名 M. viridis L. ミドリハッカ、オランダハッカ)
中央ヨーロッパ原産の多年草。M. longifoliaとM. aquaticaとの交雑種。中国では留蘭香という。メントール含量が少なく、カルボンを58〜70%含む。米国ミシガン州、日本では北海道で栽培される。
コーンミント(別名 ジャパニーズミント) 学名 Mentha arvensis var. piperascens Holms
日本、朝鮮、シベリアに生える多年草。草丈は60cmぐらいにまでなる。7〜8月に葉腋に淡紫色の花を咲かせる。中国語で家薄荷という。このハッカはメントール(ハッカ脳とも呼ぶ)含量が高く、以前は世界のハッカ脳の需要量の四分の三を日本がまかなっていた。生産地は北海道の北見だった。しかし、第二次大戦後は、主要生産地は米国や南米などに移り、合成品も多量に生産されるようになって、北見では昔の面影はなくなってしまった。
・精油の抽出
ミント類は、いずれも花の咲いた時期の先端部を採取して、水蒸気蒸留して、それぞれの精油を得る。原料植物を生乾き状態にして蒸留する場合もある。
・主要成分(%で示す)各成分含量はおおよその目安である。
ペパーミント スペアミント コーンミント
メントール 27〜51 0.1〜0.3 65〜80
メントン 13〜52 0.7〜2 3.4〜15
イソメントン 2〜10 痕跡量 1.9〜4.8
1,8-シネオール 5〜14 1〜2 0.1〜0.3
リモネン 1〜3 8〜12 0.7〜6.2
カルボン 0 58〜70 0
・偽和の問題
いちばん偽和されるのは、ペパーミント油である。たいてい、ずっと価格の安いコーンミントで増量する。あるいはコーンミント油自体をペパーミント油と詐称する。詳しい説明は省くが、この偽和は看破するのがかなり困難である。
・毒性
LD50値
ペパーミント 4.4g/kg(経口) ラットにおいて
コーンミント 1.2g/kg(経口) ラットにおいて
スペアミント 試験例は報告されていない
刺激性・感作性
ペパーミント
刺激性を示すことがあり、また各種のアレルギー反応を生じさせる場合がある。角砂糖にこの精油を数滴落として服用しただけで、胸焼けを生じさせたり、その強烈な香りのせいで窒息しそうになったという人もいる。
アレルギー反応は、この精油を多量に配合した練り歯磨きをたくさん使用したり、またこの精油を入れたスウィーツ類を食べすぎたりしたときに生じるケースがある。しかし、あまり多量に摂取しない限り、そんなに心配することはない。それほど危険なものだったら、厚生労働省が放置しておくわけがない。
スペアミント
4%濃度で摂取しても、問題はない。アレルギー反応をおこした人間の例も皆無ではないが、まず心配する必要はない。よほど非常識に大量を摂取しない限り、ペパーミントより危険性はずっと低い。
光毒性
ミント類の精油で、光毒性を見出したケースはない。
・作用
薬理作用 イヌにおいて、ペパーミント油、スペアミント油を水によくまぜて(水には不溶性だが)4%(敏感な人間には0.1%)濃度くらいで与えたところ、胃壁を弛緩させる効果がみられ、回腸・大腸の緊張・収縮力が減退した。ペパーミント油はマウスの大・小腸とモルモットの回腸とにおいていずれもin vitroで鎮痙作用を示した(マリア・リズ=バルチン博士による)。
抗菌作用 細菌の種類により、ペパーミント油の抗菌力は多様で、強弱さまざまである。
抗真菌作用 あまり強くない。
抗酸化作用 なし。
抗てんかん作用 各種のミント精油をエアロゾルとして噴霧することで、てんかんの発作を抑制ないし緩和する効果がみられた。
付記 ミント類には、ほかにペニロイヤルミント(M. pulegium〔これは有毒成分が多いので要注意。これには北米種とヨーロッパ種との2大ケモタイプがある〕)、スコッチペパーミント(M. cardiaca)など多数の種類がある。フランスのハーバリスト、モーリス・メッセゲが来日したとき、彼はmenthe verte(スペアミント)と講演で発言したのに、植物に詳しくない通訳が「ソフトミント」などと妙な訳をした。ソフトミント、ハードミントなどという英名のハッカ類は存在しない。通訳は、最低限の専門用語はマスターしなければいけない。ひどい通訳になると、problem(一般には「問題」という意味だが、そこでは「障害・病気」などと訳すべきところだった)を誤訳した。私は見かねて、その通訳にメモを渡して注意した。「問題が解決した」は「病気がなおった」と訳しなさい、と。
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