2014年12月11日木曜日

ラバンジン | 精油類を買うときには注意して!(36)

ラバンジン油
 
 ラバンジンは、シソ科の小低木、真正ラベンダー(Lavandula angustifolia var. angustifolia)と、同じくシソ科の小低木スパイクラベンダー(L. latifolia var. spica)との属間交雑種のラベンダーの一種であり、その次の世代がつくれない。動物でも植物でも、界(kingdom)・門(phylum)・網(class)・自(order)・科(family)・属(genus)・種(species)・亜種(subspecies)という分類をするが、属まで同じなら、遺伝的に分化した二種の生物間でも雑種が生じることがある。種まで同一なら、交雑種は容易にでき、二代目も三代目もできる。現在、日本で広く栽培されているイネ・コムギなどはほとんど人為的に作り出された交配種、すなわち品種である。自然界の交雑種は変種という。
 
 ラバンジンは標高400〜800mの土地に生えるL. latifolia var. spicaと標高900〜1500mの山地で生育するL. angustifolia var. angustifoliaとが昆虫が花粉媒介することによって自然に生じた交雑種である。真正ラベンダーは、むかしはフランスの農民たちが山に自然に育ったものを刈り取って香料会社に納入していた。しかし、真正ラベンダーの需要が増大するにつれ、農民たちはこれを栽培するようになった。その畑に、上記の交雑種が出現した。
 
 初めのうちは、農民たちはこの交雑種の存在に気付かなかった。そしてこれを真正種といっしょに香料会社に納めたり、両者を区別せずに蒸留して得た精油を香料を扱う会社に納入したりしていた。しかし、経験を重ねるうち、在来のラベンダーと異なって二代目ができず、形も大きい種類のラベンダー、すなわち標記のラバンジン(フランス語ではlavandinラヴァンダン)を、それとはっきり農民たちは認識するようになった。
 
 このラバンジンは、真正ラベンダーとちがって二代目ができないので、すべて挿し木でふやす(クローン栽培)。これは、病害虫にも強く、精油の取れる量も多い。つまり収油率が高い。現在、ラベンダー畑の写真として紹介されているものは、ほとんどすべてこのラバンジン畑のものだ。日本で千葉県や富士山麓などで植えられていて、テレビで「ラベンダーの花がいちめんに咲いています」などと紹介されたりするものは、まず間違いなくラバンジンである。ラバンジンもラベンダーの一種なのだから、あながちウソとも言えないのだが。
 
 フランスのある作家が真正ラベンダーのことを「巨大なウニ」にたとえた。うまいことをいうものだ。まさにその通り、一株ごとにハリを立てたウニそっくりである。対してラバンジンは、きっちり同じ長さの挿し木を畝(うね)にずらりと植えるので、南仏のプロバンスあたりでは、そりゃあきれいに見えますよ。風が吹けば、まるでミンクの毛皮のコートがあたり全体にひろがっているような錯覚をおこす。思わずカメラのシャッターを切りたくもなる。一般のフランス人には、真正ラベンダーとラバンジンとの区別も知らない者が多い。
 
 現在のフランスでは、このラバンジンが真正ラベンダーよりもはるかにたくさん栽培されている。真正ラベンダーを1とすると、ラバンジンは9もの割合である。標高の低い土地でも元気に育つし、大型の刈取り機を畝にまたがらせれば、ひろい畑でもたちまち花の咲いた先端部分を上から20〜30センチほどの長さにさっさとカットし、束ねて畝のそばにヒョイヒョイとその機械が並べてもくれる。
 
 ラバンジンは、「シュペールSuper」、「レドヴァンReydovan」、「マイエットMaillette」、「グロッソGrosso」、「アブリアリスAbrialis」、「エメリックEmeric」などの種類がある。シュペールを「スーパーラベンダー」なんて、アホな呼び方をしてはいけない。ここではSuper、Reydovanの両種をとりあげる。
 
 学名 ラバンジン(シュペール・クローン種)Lavandula × burnatii
     別名 Lavandula hybrida, L. intermedia
    ラバンジン(レドヴァン・クローン種)Lavandula × burnatii
     別名 シュペールに同じ
 
 真正ラベンダーとラバンジンとの各精油の成分を調べると、ラバンジンは、リナロール分が真正ラベンダーよりやや少なめ、リナリルアセテートは真正ラベンダーより少ない。ラバンジンは、1,8-シネオールがより多く、ラバンズリルアセテートは真正ラベンダーよりぐんと少ない。
 この比較は、「ラベンダー(37)」の項で表示するつもりである。その折に、スパイクラベンダーについても触れることにする。
 ラバンジンは、真正ラベンダーの花粉がスパイクラベンダーのめしべについたか、スパイクラベンダーの花粉が真正ラベンダーのめしべについたかによって幾つかの種類が生じた
 
主要成分(%で示す)
◎ラバンジン・シュペール
 モノテルペン類(およそ5%)
    ー リモネン0.75%、シス-およびトランス-オシメン1.35%〜2.45%
 アルコール(モノテルペン)
    ー (-)-リナロール30%、ボルネオール2.25%
 リナリルアセテート(エステル類)
    ー 40%、そのほかボルニルアセテート、ラバンズリルアセテート(15%)、ゲラニルアセテート(0.35%)
 カンファー(ケトン類)
    ー 5.45%
 痕跡量成分として、クマリン、ヘルニアリン
 
◎ラバンジン・レドヴァン
 モノテルペン類(α,β-ピネン)
    ー 変動あり
 アルコール(リナロール)
    ー 変動あり
 リナリルアセテート(エステル類)
    ー 25%
 オキシド類
    ー 1,8-シネオール 変動あり
 
・偽和の問題
 このラバンジン油は、真正ラベンダー油のニセモノを作る際によく使われる(成分をアセチル化したラバンジン油を用いる)。あるいはラバンジン油を真正ラベンダー油と詐称して売る。おフランス産なんかいちばんアブナイ。こんなインチキ精油は、ヤケドにも効果がありません。安い安いラバンジン油自体を、わざわざ偽和してまで売るバカはいない。合成物質を加えれば、よほど高くついてしまうから。
 私は、在日フランス大使館の通商代表部の人間に、「なぜ、あなたはそんなにラバンジン油を嫌うのか」と詰め寄られたこともある。私は答えた。「そりゃ、理由はカンタンです。日本人が真正ラベンダー油に期待する効果を、ラバンジン油は発揮しないからです」。
 
・毒性
 LD50値
   >5g/kg(経口) ラットにおいて
   >5g/kg(経皮) ウサギにおいて
 刺激性・感作性 ヒトにおいて、5%濃度でいずれも認められなかった。
 光毒性 報告されていない。
 
・作用
 ラバンジン油は、一般に真正ラベンダー油に比べて抗菌作用において劣るように思われる。
 シュペール種およびレドヴァン種のいずれも、かなり強力な抗微生物、殺菌、殺ウイルス作用がある。
 そのほか、強壮、神経強壮、抗カタル、去痰の各効果を示す。
 したがって、感染性腸炎、鼻咽頭炎、気管支炎、無力症への効果が期待される。
 また、生理学的用量においては、禁忌はどちらについても知られていない。
 
(付記)現在、フランスで生産される真正ラベンダー油は、年間10トン程度で、それに対してラバンジン油は年産100トン以上にもなる。
 いま世界一の真正ラベンダー油生産国はブルガリアだが(年産40トン)、それが輸出されてフランス人の手に渡ると、たちまち10倍くらいに伸ばされる。つまり、偽和され、増量される。
中国も新疆ウイグル自治区で真正ラベンダー油を年間30トンくらい生産している。その大半はブルガリアと同様にフランスに輸出されている。それがどう処理されているかはおよそ想像がつく。

この記事は参考になりましたか?

少しでも参考になればSNSでシェアしてもらうと嬉しいです。
   ↓ ↓ ↓

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

0 件のコメント:

コメントを投稿