2014年8月12日火曜日

フェンネル(ウイキョウ) | 精油類を買うときには注意して!(25)

フェンネル油
 
 フェンネルは、セリ科ウイキョウ属の1年草あるいは多年草。私にはさして魅力的とは思えないその散形花には、開花期には昆虫がたくさん集まる。
 ヨーロッパからアジアにかけて数種が分布する。
 
学名① Foeniculum vulgare var. amara Miller
    英名はBitter fennel(ビターフェンネル)、日本ではフェンネル、茴香(ウイキョウ。これは、中国語の茴香〔フイシャン〕に由来し、鮮度の落ちた魚類を用いた料理で、この実を香味料にすると、その香りを回〔かえ〕す、すなわちフレッシュなよい香りに戻すとの意味をあらわす)と称される。
 草高1〜2メートルになる大型草本。中国には4〜5世紀に西城から伝来し、日本には9世紀前に中国から渡来した。フェンネルは古代ギリシャではマラトン(Marathon)と呼ばれた。これはマラソン競技が行われた土地が、これの群生地だったことによる。それはどうでもいいが。中世以来、ヨーロッパではフランス、イタリア、ロシアなどの料理にこの実が香味料としてひろく利用されるようになった。
 インドでも香味料として古来から使用された。
 中国では、腹部・胸部の鎮痛剤としても用いられている。
 日本では、長野・岩手・富山の各県で栽培される。
 
学名② Foeniculum vulgare var. dulce Miller
    英名はSweet fennel(スイートフェンネル)、Florence fennel(フローレンスフェンネル)、日本ではイタリアウイキョウ、アマウイキョウと称される。
 このウイキョウは、①のビターフェンネル同様に、その実が香味料としても使われるが、それよりもウドのように軟白栽培して、野菜としてその群生葉の基部(直径10cmくらいになる)を煮て食べる。これがうまいんだな。
 
 ビター、スウィートの両種とも、その実を採取して水蒸気蒸留して精油を抽出する。
 現在、スペイン・東欧諸国で多く栽培されている。
 
 
主要成分(%で示す。ビター・スウィート両種をひっくるめたおおよそのパーセンテージである)
 トランス-アネトール   30〜75
 シス-アネトール     0〜0.3
 フェンコン       10〜25
 メチルカビコール    1〜5
 リモネン        1〜55
 α-ピネン        1.5〜55
 
・偽和の問題
 アロマテラピーで、というよりも、香料工業において重要視されるのは、スウィートフェンネル油のほうである。そこで、ビターフェンネル油でこれが偽和されることは往々ある。そしてまた、いずれも安あがりに合成したトランス-アネトール、フェンコン、メチルカビコール、リモネンなども偽和のために大いに利用される。そのほか、フェンネルの近縁のセリ科植物の実を蒸留した各種留分も、増量のために使われる。
 
・毒性
 LD50値
  ビターフェンネル油:
   ラットで4.5g/kg(経口)
   ウサギで>5g/kg(経皮)
  スウィートフェンネル油:
   ラットで3.8g/kg(経口)
   ウサギで>5g/kg(経皮)
 
 刺激性・感作性
  ビター・スウィートの両種で、ヒトにおいて4%濃度でこれらは一切認められなかった。しかし、スウィートフェンネルを未稀釈でマウスの皮膚に適用したところ、激烈な反応を呈し、ウサギの皮膚でテストしたところ、相当な反応が見られた。
 アネトールは一般にアレルギーを惹起する作用を示し、有毒成分の一つに数えられる。
 
 光毒性
  認められない。
 
・作用
 薬理作用 スウィートフェンネル油は、モルモットの回腸で、in vitroで強烈な鎮痙惹起作用をあらわし、ついで鎮痙作用を示した。
 フェンネル油は、エストロゲン様作用(女性の発情性ホルモン的な働き)を示すとされる。これが、女性のバストを大きくするか、また泌乳量を増加させるかは目下、研究中。
 ハーブとしてのフェンネルを摂取させた家畜にも、そうした作用のせいで繁殖上の問題を生じたというケースがいくつも報告されている。なお、妊娠中の女性のこの精油の摂取を禁忌とする学者もいる。
 抗菌効果 あまり強力とはいえない。あることはあるといった程度。
 
 抗真菌効果 かなり強力。
 
 駆風作用 とくに小児において顕著とされる。しかし、私はこれを摂取した子供がブウブウ放屁するのに接した記憶はいまのところない。 

2014年8月7日木曜日

パルマローザ | 精油類を買うときには注意して!(24)

パルマローザ(Cymbopogon martinii Stapf. var. motia、別名 Andropogon martinii Roxb. var. motia)油

 イネ科のオガルカヤ属の多年草。これに属するものは、アフリカ・アジアの熱帯と亜熱帯との各地方に生える。
 イーストインディアン油、ターキッシュゼラニウム油とも称される。バラを思わせるフローラルな甘い香りの精油。
 原産地 インド、マダガスカル、中央アメリカ、ブラジル。
     現在も、これらの地域で栽培されている。ほかにコモロ諸島およびセーシェル諸島でも、これが栽培され、精油が生産される。
 精油 花の咲く前に収穫した全草を、1週間ほど乾燥させてから水蒸気蒸留して搾油する。

主要成分(%で示す)
 ゲラニオール     76〜83
 ゲラニルアセテート  5〜11.8
 リナロール      2.3〜3.9
 ネラール       0.3〜0.6
 ファルネソール    0.3〜1.5
 β-カリオフィレン   1〜1.8

 以上はおおよその目安であり、産地その他の条件により、成分に相当な変動がある。
 パルマローザの近縁植物に、Cymbopogon martiinii Stapf. var. sofiaがある。これは「ジンジャーグラス」と呼ばれる。これからジンジャーグラス油を蒸留抽出する。
 C. martinii var. motiaとC. martinii var. sofiaとをまとめてパルマローザ油と称することもある。Var. motiaのほうが品質のよい洗練された香りの精油と考える人のほうが多い。

・偽和の問題
 ジンジャーグラス(Var. sofia)は、野生で収穫しやすいことから、これからとった精油を偽和剤とすることがひろく行われている。しかし、ジンジャーグラス油のゲラニオール含有量は、Var. motiaよりも少ない。偽和のために、さらにテレビン油、シトロネラ油、合成したゲラニオールが加えられることもよくある。
 また、このパルマローザ油自体も、ゼラニウム油、バラ油の増量のために利用されることが多い。

・毒性
 LD50値
   ラットで>5g/kg(経口)
   ウサギで>5g/kg(経皮)

 刺激性・感作性
  ヒトにおいて8%濃度で認められなかった。

 光毒性
  報告例なし。

・作用
 薬理作用 モルモットの回腸で、in vitroで鎮痙作用を示した。
 抗菌効果 各種の細菌にたいして、かなり強力な抗菌力を発揮する。

 抗真菌効果 中程度の抗真菌作用を示すことが報告されている。

 その他の作用 かなりの酸化防止力がある。また、CNVの波形を見ると、この精油の芳香にはリラックス作用があることがわかる。

2014年7月29日火曜日

バラ | 精油・アブソリュート類を買うときには注意して!(23)

バラ油
 
 バラ油と一口に言っても、さまざまな種類がある。
 ◎ ブルガリアン ローズ油、ダマスク ローズ油、ローズ オットー、ターキッシュ ローズ油(いずれも同じ種類のバラ油)
 ・学名 上記のバラはRosa damascena(ロサ・ダマスケナ〔ダマセナなどとは決して発音しないこと〕。ダマスクローズの意)
 ◎ フレンチ ローズ油、モロカンローズ油、キャベジ ローズ油(いずれも同じ種類のバラ油)
 ・学名 上記のバラはRosa centifolia(ロサ・ケンティフォリア、100も花弁をもつ〔これは大げさだが〕バラの意)
 ◎そのほかのバラ油 ガリカバラ油(これをフレンチローズ油としている人もいる)
 Rosa gallica(ロサ・ガリカ) ガリカバラ(ガリア〔今日のフランス・スイス〕のバラの意)
 Rosa alba(ロサ・アルバ) アルババラ(白バラの意)
 
 バラはバラ科の双子葉植物で、落葉または常緑の低木。またはつる性の木本。
 茎・葉にトゲが多い。北半球の亜寒帯から熱帯にかけて分布。200種の野生種がある。美しい香り高い花をつけ、香料の原料にもされる。
 現在、私たちが目にするバラは、複雑な交配育種(ことに1800年以降の)の結果、つくられたものである。日本古来のバラとしてはノイバラ、テリハノイバラ、タカネバラ、ハマナスなど十数種があげられる。
 
 精油 早朝(おそくとも午前10時ごろまで)に採取したバラの花を水蒸気蒸留して抽出。ブルガリアはバラ(ダマスクローズ)の名産地で、この地を支配していたトルコ人が持ち込んだものである。
 アブソリュート ベンゼン、アセトン、四塩化炭素、石油エーテルなどの有機溶剤にバラの花弁を浸し、花のワックスと芳香成分とが一体になった「コンクリート」をつくり、これを78℃で沸騰するエチルアルコールで蒸留してアブソリュートを得る。アブソリュートは、最終産物に発ガン性溶剤が残るため、原則としてアロマテラピーでは用いられない。
 
主要成分(%で示す) 各種のバラの大まかな目安と考えて頂きたい。
              バラ油     バラアブソリュート
 シトロネロール     18〜55      18〜22
 ゲラニオール      12〜40      10〜15
 ネロール         3〜9        3〜9
 フェニルエチルアルコール 1〜3       60〜65
 ステアロプテン       0         8〜22
 
 微小成分(精油・アブソリュート)
 ローズオキシド  0.1〜0.5
 β-ダマスコン   0.01
 β-ダマスケノン  0.14
 β-イオノン    痕跡量〜0.03
 
 注 バラ油には、少なく見積もっても300種もの成分が含まれている。
 そのうち、わずか0.14%しか含まれていないβ-ダマスケノンが、あのバラのいかにもバラらしい香りのもととなっている。
 
・偽和の問題
 精油にせよアブソリュートにせよ、バラは市場でもっとも高価なものの一つなので、偽和の技術も巧妙を極めていて、看破するのは容易ではない。偽和には、数多くの合成化学物質が用いられ、少量の真正成分を大幅に増量させている。いずれも合成したフェニルエチルアルコール、ジエチルフタレート、シトロネロール、ゲラニオール、イソオイゲノール、ヘリオトロピン、シクラマール、アミルサリチレートが多量に加えられ、さらにゼラニウム油からとったロジノールなども添加したものが「バラ油」と称して売られているものの大半だ。まず日本では100%純粋なバラ油というものは、もはや入手不可能だと思っていただきたい。
 アブソリュートもパルマローザ油の成分(というか、やはり合成したもの)、ペルーバルサム油、コスタス油、クローブ花芽油などを加えて偽和するのが、当然のように行われている。
 ローズオットーも、最初に蒸留した真正バラ油と、再留したバラ油とを組み合わせてフェニルエチルアルコール分を大幅に水増ししてあるのがふつうである。「バラ油」にせよ、「バラ アブソリュート」にせよ、薬効を期待するならもっとずっと安価な別の精油を利用した方が、フトコロも痛まないし、体にも良いだろう。
 
・毒性
 LD50値
  Rosa damascena および R. centifoliaの各精油では
   ラットで>5g/kg(経口)
   ウサギで2.5g/kg(経皮)
  Rosa centifoliaのアブソリュートでは
   ラットで>5g/kg(経口)
   経皮値は定かでない。
 
 刺激性・感作性
  ヒトにおいて2%濃度で認められず(精油・アブソリュートの双方とも)。
 
 光毒性
  報告例なし。
 
・作用(もちろんホンモノでなければ、いわゆる「効果」など論じるのはナンセンスである)
 薬理作用 各種のバラ油・アブソリュートで、モルモットの回腸においてin vivoで鎮痙作用が認められた。
 抗菌効果 ブルガリアのカザンリク産のRosa damascenaで若干の抗菌作用が確認されている。
 
 抗真菌効果 報告例なし。
 
 その他の作用 バラ油はマウスの活動に一切影響を及ぼさなかった。CNVでも特段の鎮静ないし刺激効果は示さないことがわかった。
 この精油は女性の冷感症と男性のインポテンスに有効と言われるが、正確なデータに基づいた報告ではない(第一、このような秘事の正確なデータなど、どうすればとれるというのだろう)。 
 また、この精油は女性特有の各種疾患に有効だとされるが、あまり大げさに受け止めるべきではないと思う。理由は、おおむね上に述べたことと同様である。

2014年7月22日火曜日

パチュリ Pogostemon cablin | 精油類を買うときには注意して!(22)

パチュリ油
 
 学名 Pogostemon cablin Benth, 別名P. patchouli Hook
    厳密には、これらは少し異なった種類。しかし、用途は同じで、産地でも混同されることが多い。ほかにも近似種は30種近くある。「パチョリ」とも呼ぶ。
 
 特徴 東南アジア、マレーシアやインドなどを原産地とし、これらの地域で栽培されるシソ科の双子葉の多年草(亜低木化することもある)。高さは30〜80cm。多くは、葉を4〜5日干して独特の芳香を持つ精油を蒸留する。正確に言うと、シソ科ヒゲオシベ属に分類されるシソ科のハーブで、ヨーロッパの各種のシソ科ハーブ類とは大きな違いがある植物。
  なお、パチュリ油を保管する場合には、光のあたらない、15℃を超えない恒温の場所で保存するのがよいと言われる。
 
主要成分(%で示す)
 パチュリアルコール    31〜46
 α-グアイエン       10〜15
 カリオフィレン      2〜4
 α-ブルネセン       13〜17
 セーシェレン       6〜9.4
 α-パチュリン       3.9〜5.9
 β-パチュリン       1.7〜4.8
 ポゴストール       0〜2.7
 
 含有成分の鉄分を人為的に除去することもある。こうすると、香りに「軽み」が出るためである。上にはあげなかったが、微小成分類、痕跡量成分の(+)-ノルパチュレノール(0.5%以下の含有量)、ノルテトラパチュロール(含有量0.001%)などが、バチュリ油独特の芳香に大きく貢献する。
 
・偽和の問題
 シダーウッド油、クローブ油から抽出したセスキテルペン類、またシダーウッド油の誘導体類、さらにメチルアビエテート、ヒドロアビエテートアルコール類、ベチバー油を抽出したあとの残留物(つまりカスだ)、カンファー油抽出時の残留物、ガージャンバルサム油(これはα-グルユネンの存在でそれと検出できる)、コパイババルサム油、ヒマシ油、イソボルニルアセテートなどをめちゃくちゃに加えて、カットにカットを重ねた(すなわち増量された)パチュリ油が、市場をほとんど占拠している。あなたのお手持ちのパチュリ油も99.9%の確率でこの手の製品である。
 
・毒性
 LD50値
  ラットで>5g/kg(経口)
  ウサギで>5g/kg(経皮)
 
 刺激性・感作性
  ヒトにおいて20%濃度でいずれもゼロ。
  ただし皮膚病患者の場合は、0.1%以下の濃度で用いるべきであると、マリア・リズ=バルチン博士は言っている。
 
 光毒性
  報告例なし。
 
・作用(もちろんホンモノでなければ、いわゆる「効果」など論じるのはナンセンスである)
 薬理作用 モルモットの回腸に、in vitroで、強い鎮痙効果を示した。
 抗菌効果 試験に用いるパチュリ油の種類によって、変動がある。一定の抗菌効果は期待できるとだけ言っておこう。蒸散させる方法でも、同様のことがいえる。
 
 抗真菌効果 きわめて弱い抗真菌力しかない。
 
 その他の作用 抗酸化力はない。パチュリ油をベースにしたスプレー剤が、入院中の患者の気分を明るくしたという報告がある。
 パチュリ油を蒸散させてマウスに嗅がせたところ、その動作が目立って活発化したとの例がある。
 
随想①
 私は、パチュリ油の香りを嗅ぐたびに、江戸時代の俳人、与謝蕪村(よさ・ぶそん)の『白梅(はくばい)や墨芳(かんば)しき鴻臚館(こうろかん)』という句を思い出す。鴻臚館とは王朝時代、外国使臣接待のため、太宰府、京都、難波の3カ所に設けられた迎賓館。白梅香る鴻臚館の広間で、内外の貴紳が集まり、詩文の献酬が交わされ、芳しい墨の香りが部屋のなかにゆかしく漂うようすを詠んだ秀句である。この墨の香りこそ、パチュリ油の芳香なのである。加えて白梅の花の香りも流れ、白い梅の花と墨痕の黒さとの対比も連想させ、蕪村の共感覚的なところを匂わせて、私を酔わせて止まない。
 
随想②
 インドなどでは、衣服や枕などにこのパチュリ油で香りづけをする。
 インドから英国に送られたショールには、パチュリの香りがして(ウール地を食う虫よけにパチュリの葉をそのままはさんだらしい)、それが英国人の心を捉えた。私も、こどものころ母が持っていたこの香りのするショールをいつも思い出す。中国伝統医学では、このパチュリ(藿香〔かっこう〕)を感冒、嘔吐、下痢、産前産後の腹痛などに用いる。 

2014年7月15日火曜日

バジル Ocimum basilicum | 精油類を買うときには注意して!(21)

バジル(Ocimum basilicum)油
 
 バジルはシソ科の双子葉草本。一年草または多年草。亜低木化することもある。和名はメボウキという。この小さい種子を皿などに入れて水を注いで放置すると、寒天状の物質ができる。江戸時代に到来したハーブである。日本人はこの寒天のような物質を利用し、目に入ったゴミをとったり、かすみ目を治療したりした。そこで「目箒(めぼうき)」の和名がつけられた。イタリア料理でよく利用されることから、そのイタリア語名バジリコの名も日本で広く知られている。
 
 原産地 熱帯アジア。しかし、現在では温暖な世界各地(フランス、米国、イタリアなど)で植えられている。日本でも最近では野菜としてスーパーマーケットなどで売っている。
 
歴史 ギリシャでは、古くからこれを貴族などが香料として使ったので、ギリシャでbasilicon(バシリコン、高貴な、あるいは王の、の意)と呼んだ。ギリシャ語では「王」のことをbasilius,バシレウスという。しかし、アフリカの砂漠に生息し、ひと睨み、あるいはひと息で人を殺すという伝説上の爬虫類的な怪物、basilisk(バシリスク)との混同が生じ、この怪物の毒気を消す霊力のある草と信じられたりもした。Ocimumという属名は、以前にはOcymumと表わした。
 ヨーロッパ、アフリカ、インドなどでは、昔から香味料、矯臭料、鎮咳薬、解熱薬として利用した。また、野菜としてサラダ・スープ・パスタ・ピザに使ってきた。メボウキ属にはいろいろな種類があるが、いずれも香味料とか薬用植物とかとして、人びとに活用される。
 
精油 花が咲いた先端部分と葉とを蒸留して抽出する。いまではどうか知らないが、私がアロマテラピーを日本に紹介した当時(1985年)には、香料会社ではバジル油のことを「ベージル油」と称していた。スウィート感・清涼感・アニス様・花様の香りを持つ香水材料の一つとして使われる精油である。
 
ケモタイプについて
  スウィートバジル油(コモンバジル油) ー リナロールケモタイプ
  エキゾチックバジル油 ー カンファー・エストラゴールケモタイプ
  そのほか、メチルシンナメートケモタイプなどさまざまなものがある。
  一般にスウィートバジル油を「バジル」油の代表格にしている。
 
主要成分(%で示す)
            スウィート種   エキゾチック種   メチルシンナメート種
 1,8-シネオール     3〜27      3〜7        5.6
 メチルカビコール    0〜30     68〜87       2.2
 メチルオイゲノール   0〜7       0.5〜2.4       0
 オイゲノール      0〜7       痕跡量        0
 Z-メチルシンナメート   0         0         4.7
 E-メチルシンナメート   0         0         32
 リナロール       44〜69     0.3〜2.2       41.7
 β-カリオフィレン    0.7〜14.4       0         0
 
 (注)各種のケモタイプにより、また同じ種類のバジルでも、生育地により成分の変動はきわめて大きい。上記の値も、いちおうの目安ととっていただきたい。また、バジルはその各部位によっても、組成成分がそれぞれ異なる。
 
・偽和の問題
 エキゾチックバジル油にはとくに、合成リナロールが加えられるケースが多い。
 
・毒性
 LD50値 スウィートバジル油
  ラットで1.4(<3.5)g/kg(経口)
  ウサギで0.5g/kg(経皮)
 
 刺激性・感作性
  ヒトにおいて、4%濃度で、いずれもゼロ。
 
 光毒性
  報告例なし。
  (注)メチルカビコールは感作性があることが疑われているので、人にもよるが、感作性を示す反応が生じることが考えられる。その他、フィジー産のメチルシンナメートケモタイプなどについては、まだ試験例がない。
 
・作用
 薬理作用 in vitroでテストしたモルモットの回腸で、痙攣惹起作用を示し、ついで鎮痙効果を表わした。
 抗菌効果 各種の細菌にたいして、強い抗菌力を示した例が、多く報告されている。蒸散させても、この力を発揮する。
 
 抗真菌効果 スウィートバジル油は、広範な種類の真菌にたいして強力な効果がある。メチルカビコール分の多いバジル油もパワフルな効果を示す。
 
 その他の作用 バジル油は、CNVの波形観察で脳への刺激作用があることが明らかになっている。なお、バジル油には抗酸化活性はみられない。 

2014年7月8日火曜日

パイン(スコッチ) | 精油類を買うときには注意して!⑳

パイン(スコッチ)(Pinus sylvestris)油
 
 スコッチパイン(マツ)の針葉・球果を蒸留して抽出する。
 原産地は、北欧、シベリア、スカンジナビア。現在ではもっぱらスコットランド、ノルウェイで採油される。
 スコッチパインはマツ科の大きな針葉樹。80種にのぼる種類がある。赤みがかった樹皮、灰緑色の針葉が特徴。
 
主要成分
 α-ピネン
 β-ピネン
 リモネン
 ボルネオール
 ボルニルアセテート
 γ-カレン
 
 いずれも、原木の産地・種類により大幅な変動があるため、一概に数値表示できない。
 
・偽和の問題
 他の木々に由来した(あるいは合成した)カンフェン、ピネン類、イソボルニルアセテートなどが、偽和・増量の目的で利用される。ダニエル・ペノエル博士らによると、近年では発ガン性のある溶剤で、これをアブソリュートとして抽出するにいたっており、そのことによる労働者への健康被害が多発している。
 
・毒性
 LD50値
  ラットで>5g/kg(経口)
  ウサギで>5g/kg(経皮)
 
 刺激性・感作性
  ヒトにおいて20%濃度で、これらはいずれも認められなかった。
 
 光毒性
  なし。
 
 
・作用
 特筆すべき薬理学的効果は報告されていないが、いちおうあげておく。
 
 抗菌効果
  細菌類の5分の4はこれによって多かれ少なかれ影響をうける。しかし、パイン油以外の精油類と併用して、その効果が増大することがわかっている。パイン油類は結核菌には、別段影響を及ぼさない。マツ林の空気が肺結核に有効だというのは、医学的な根拠のないデタラメである。
  ただ、この精油を、週に1回ずつ、結核を人為的に発症させたモルモットに投与したところ(オリーブ油に2%濃度に稀釈して筋肉注射)、治療効果が認められた。
 
 抗真菌効果 
  各種の真菌に一定の効果がある。ただし、病原性真菌類にたいする効果は弱く、期待できないといったほうがよい。 

2014年7月1日火曜日

インドシナ戦争時のジャン・バルネ博士

Dr Jean Valnet at Vinh-Yen.ベトナムのトンキン軍管区第1前進外科処置部隊主任として負傷兵の処置にあたる軍医隊長、ジャン・バルネ大尉(ヴィン=イェンの戦闘において)
photo : Ch.K.女史提供 
 
 
 
インドシナ戦争時のジャン・バルネ博士
 高山 林太郎
 
 1946年から54年にかけて、新たに建国したベトナム民主共和国が、インドシナの支配権の回復をもくろむフランスに対して行った独立戦争をインドシナ戦争という。
 米国からの膨大な援助資金と武器との支援をうけて、制空権を握ったにもかかわらず、54年5月ディエンビエンフーでの決戦で、フランス軍は大敗した。
 思えば、ナポレオンがロシアで大敗して以降のフランス軍は、ヘナヘナというイメージしかない。
 
 このフランス軍のほとんどは、いわゆる「外人部隊」(旧ナチスドイツ兵、アルジェリア兵、南ベトナムで徴兵した兵士など)からなっていた。旧ナチスドイツ兵は第二次大戦中、東部戦線でソ連軍に徹底的に粉砕され、祖国ドイツは米英空軍の猛爆で廃墟同然になり、働き口もなかったので、やむなく昨日まで自分たちが支配していたフランスの、その外人部隊に自分の身体と命とを売ったのだ。
 つい先日まで自分たちにペコペコしていたフランス人にアゴでこき使われるドイツ人たちは、なんの恨みもないベトナム人を相手に、地球の裏側で、ド・カストリなる焼酎みたいな名前のフランス軍司令官の命令下で戦わされた。戦意などわくわけがない。ドイツ人たちはヤケになってナチスの軍歌を高唱していた。体格も貧弱なベトナム兵の闘志には、最新式の米国製の航空機も大砲も歯が立たなかった。
 このベトナム兵たちの戦いを見たジャン・バルネが、自分自身パルチザン兵として活躍したおのれのかつての姿をそこに重ね合わせなかったはずはない。とはいえ、フランス軍の軍医大尉として、ジャン・バルネは負傷者たちの手当てに懸命にあたった。
 大国フランスは、弱小なベトナム民主共和国に敗北した。ド・カストリ司令官は、ベトナム軍の捕虜の身となった。帝国主義・植民地主義の時代は終わったのである(それにつづくベトナム戦での米国の悪あがきやアルジェリアの対仏独立戦争などはあったが)。
 
 このとき、ジャン・バルネは、オーストラリア・ニュージーランドから送られてきたティートリー油などの精油を実験的に「初めて」使用し、アロマテラピーを実践した。第二次大戦中から彼がアロマテラピーを行っていたように言う人間もいるが、みんな嘘八百だ。
 ジャン・バルネの心中を察するに、これ以降、ほとほと彼は戦争が嫌になったのだろう。政府はレジオン・ドヌール勲章を贈って彼をひきとめようとしたが、ジャン・バルネは軍籍を離れ、民間の病院医となった。彼は決してベトナム人を殺さなかった。第二次大戦中もパルチザンの衛生兵として、祖国のために尽力した。しかし、みずからの手でドイツ兵を殺傷したわけではない。このときは、友軍のため、同志のためにペニシリンを配布し、ドイツに降伏して、その傀儡になった時のフランスのヴィシー政権にさからって、傷ついた戦友たちの命を救ったのである。
 ハーバリストのモーリス・メッセゲは、南仏の一介の民間人にすぎなかったが、ナチスドイツの収容所に送られそうになったときに脱走し、パルチザンの一員となった。彼は自分の手に余るようなサイズの拳銃を与えられ、ドイツ兵を狙撃しようとしたが、ついにその引き金を引けなかったと告白している。
 
 医学により、民間の医術により、人を健康にしようとし、人間の命を救おうと心の底から思うものには、どんな理由があろうとも、人の命を奪うことなどできないのだ。
 この二人のことを考える私は、そう信じて疑わない。アロマテラピーを研究し、実践しているみなさんも、きっと同じ考えをお持ちのことと思う。 
 
なお、民間医となったジャン・バルネ博士は、現代薬学の花形とされた抗生物質剤の使用に疑問を持つようになり「よほど差し迫った状況でないかぎり、抗生物質剤を使わないように」と主張した。
博士は1995年に死去するまで、このことを強く訴え続けた。「植物=芳香療法」は博士にとって抗生物質療法に対する代案の一つだったのである。
母を抗生物質クロラムフェニコールの副作用で失った私の心に、博士のこの言葉は重く響いた。

そして、博士はアロマテラピーを復権させ、これを広めようと本を書いたり、民間の病院で密かに実践したりしたことも付け加えておきたい。
精神病院を含む各種の病院でこれを実践しながら、フランス伝統の植物療法を質的にブレイクスルーさせるものとして、つまりアトミックな植物療法としてのアロマテラピーの体系を構築していったのである。
博士が、雑誌記者のインタビューに答えて、ルネ=モーリス・ガットフォセのいう「アロマテラピー」からはその名前を除いては一切影響を受けていない、と言っているのはそのことを意味しているのだろう。
これが、バルネ博士をアロマテラピーの中興の祖と私が呼ぶゆえんである。