2014年7月8日火曜日

パイン(スコッチ) | 精油類を買うときには注意して!⑳

パイン(スコッチ)(Pinus sylvestris)油
 
 スコッチパイン(マツ)の針葉・球果を蒸留して抽出する。
 原産地は、北欧、シベリア、スカンジナビア。現在ではもっぱらスコットランド、ノルウェイで採油される。
 スコッチパインはマツ科の大きな針葉樹。80種にのぼる種類がある。赤みがかった樹皮、灰緑色の針葉が特徴。
 
主要成分
 α-ピネン
 β-ピネン
 リモネン
 ボルネオール
 ボルニルアセテート
 γ-カレン
 
 いずれも、原木の産地・種類により大幅な変動があるため、一概に数値表示できない。
 
・偽和の問題
 他の木々に由来した(あるいは合成した)カンフェン、ピネン類、イソボルニルアセテートなどが、偽和・増量の目的で利用される。ダニエル・ペノエル博士らによると、近年では発ガン性のある溶剤で、これをアブソリュートとして抽出するにいたっており、そのことによる労働者への健康被害が多発している。
 
・毒性
 LD50値
  ラットで>5g/kg(経口)
  ウサギで>5g/kg(経皮)
 
 刺激性・感作性
  ヒトにおいて20%濃度で、これらはいずれも認められなかった。
 
 光毒性
  なし。
 
 
・作用
 特筆すべき薬理学的効果は報告されていないが、いちおうあげておく。
 
 抗菌効果
  細菌類の5分の4はこれによって多かれ少なかれ影響をうける。しかし、パイン油以外の精油類と併用して、その効果が増大することがわかっている。パイン油類は結核菌には、別段影響を及ぼさない。マツ林の空気が肺結核に有効だというのは、医学的な根拠のないデタラメである。
  ただ、この精油を、週に1回ずつ、結核を人為的に発症させたモルモットに投与したところ(オリーブ油に2%濃度に稀釈して筋肉注射)、治療効果が認められた。
 
 抗真菌効果 
  各種の真菌に一定の効果がある。ただし、病原性真菌類にたいする効果は弱く、期待できないといったほうがよい。 

2014年7月1日火曜日

インドシナ戦争時のジャン・バルネ博士

Dr Jean Valnet at Vinh-Yen.ベトナムのトンキン軍管区第1前進外科処置部隊主任として負傷兵の処置にあたる軍医隊長、ジャン・バルネ大尉(ヴィン=イェンの戦闘において)
photo : Ch.K.女史提供 
 
 
 
インドシナ戦争時のジャン・バルネ博士
 高山 林太郎
 
 1946年から54年にかけて、新たに建国したベトナム民主共和国が、インドシナの支配権の回復をもくろむフランスに対して行った独立戦争をインドシナ戦争という。
 米国からの膨大な援助資金と武器との支援をうけて、制空権を握ったにもかかわらず、54年5月ディエンビエンフーでの決戦で、フランス軍は大敗した。
 思えば、ナポレオンがロシアで大敗して以降のフランス軍は、ヘナヘナというイメージしかない。
 
 このフランス軍のほとんどは、いわゆる「外人部隊」(旧ナチスドイツ兵、アルジェリア兵、南ベトナムで徴兵した兵士など)からなっていた。旧ナチスドイツ兵は第二次大戦中、東部戦線でソ連軍に徹底的に粉砕され、祖国ドイツは米英空軍の猛爆で廃墟同然になり、働き口もなかったので、やむなく昨日まで自分たちが支配していたフランスの、その外人部隊に自分の身体と命とを売ったのだ。
 つい先日まで自分たちにペコペコしていたフランス人にアゴでこき使われるドイツ人たちは、なんの恨みもないベトナム人を相手に、地球の裏側で、ド・カストリなる焼酎みたいな名前のフランス軍司令官の命令下で戦わされた。戦意などわくわけがない。ドイツ人たちはヤケになってナチスの軍歌を高唱していた。体格も貧弱なベトナム兵の闘志には、最新式の米国製の航空機も大砲も歯が立たなかった。
 このベトナム兵たちの戦いを見たジャン・バルネが、自分自身パルチザン兵として活躍したおのれのかつての姿をそこに重ね合わせなかったはずはない。とはいえ、フランス軍の軍医大尉として、ジャン・バルネは負傷者たちの手当てに懸命にあたった。
 大国フランスは、弱小なベトナム民主共和国に敗北した。ド・カストリ司令官は、ベトナム軍の捕虜の身となった。帝国主義・植民地主義の時代は終わったのである(それにつづくベトナム戦での米国の悪あがきやアルジェリアの対仏独立戦争などはあったが)。
 
 このとき、ジャン・バルネは、オーストラリア・ニュージーランドから送られてきたティートリー油などの精油を実験的に「初めて」使用し、アロマテラピーを実践した。第二次大戦中から彼がアロマテラピーを行っていたように言う人間もいるが、みんな嘘八百だ。
 ジャン・バルネの心中を察するに、これ以降、ほとほと彼は戦争が嫌になったのだろう。政府はレジオン・ドヌール勲章を贈って彼をひきとめようとしたが、ジャン・バルネは軍籍を離れ、民間の病院医となった。彼は決してベトナム人を殺さなかった。第二次大戦中もパルチザンの衛生兵として、祖国のために尽力した。しかし、みずからの手でドイツ兵を殺傷したわけではない。このときは、友軍のため、同志のためにペニシリンを配布し、ドイツに降伏して、その傀儡になった時のフランスのヴィシー政権にさからって、傷ついた戦友たちの命を救ったのである。
 ハーバリストのモーリス・メッセゲは、南仏の一介の民間人にすぎなかったが、ナチスドイツの収容所に送られそうになったときに脱走し、パルチザンの一員となった。彼は自分の手に余るようなサイズの拳銃を与えられ、ドイツ兵を狙撃しようとしたが、ついにその引き金を引けなかったと告白している。
 
 医学により、民間の医術により、人を健康にしようとし、人間の命を救おうと心の底から思うものには、どんな理由があろうとも、人の命を奪うことなどできないのだ。
 この二人のことを考える私は、そう信じて疑わない。アロマテラピーを研究し、実践しているみなさんも、きっと同じ考えをお持ちのことと思う。 
 
なお、民間医となったジャン・バルネ博士は、現代薬学の花形とされた抗生物質剤の使用に疑問を持つようになり「よほど差し迫った状況でないかぎり、抗生物質剤を使わないように」と主張した。
博士は1995年に死去するまで、このことを強く訴え続けた。「植物=芳香療法」は博士にとって抗生物質療法に対する代案の一つだったのである。
母を抗生物質クロラムフェニコールの副作用で失った私の心に、博士のこの言葉は重く響いた。

そして、博士はアロマテラピーを復権させ、これを広めようと本を書いたり、民間の病院で密かに実践したりしたことも付け加えておきたい。
精神病院を含む各種の病院でこれを実践しながら、フランス伝統の植物療法を質的にブレイクスルーさせるものとして、つまりアトミックな植物療法としてのアロマテラピーの体系を構築していったのである。
博士が、雑誌記者のインタビューに答えて、ルネ=モーリス・ガットフォセのいう「アロマテラピー」からはその名前を除いては一切影響を受けていない、と言っているのはそのことを意味しているのだろう。
これが、バルネ博士をアロマテラピーの中興の祖と私が呼ぶゆえんである。

2014年6月24日火曜日

ネロリ(オレンジ花) | 精油類を買うときには注意して!⑲

以前から予定していた、ジャン・バルネ博士についての記事は、次回にまわさせていただきます。
可能であれば、バルネ博士がインドシナ戦争に従軍して負傷兵の治療にあたっている際の日本初公開の写真も載せたいと考えています。
高山 林太郎

ネロリ(Citrus aurantium ssp. amara 、別名 C. bigaradia)油
 
 原産地はインド。ただし現在の主要産地は、イタリア、フランス、モロッコ、チュニジアなど。
 抽出方法はビガラディアオレンジ(C. bigaradia)の花を蒸留して抽出。
 
主要成分(%で示す)
 リナロール      23.8
 リナリルアセテート  68.5
 ゲラニオール     5.9
 リモネン       痕跡量
 
 以上はもとよりいちおうの目安であることは、いうまでもない。市場に出まわっているもののほとんどは合成成分をテンコ盛りしたニセモノと考えてよい。こうしたニセモノ精油はホンモノの、つまりピュアなネロリ油とは成分がおよそ異なっている。リナリルアセテート(もちろん合成品だ)だけしか入っていない、ひどい「ネロリ油」もたくさん売られている。こんなことをする悪人どもは、ガラスをダイヤと偽って販売する奴らと完全に同罪だ。つまり詐欺師だということである。こんな連中が逮捕されないのは、警察・検察関係者がこの方面の知識を学ぼうとしない、税金泥棒の集団だからである。ひどい冤罪(えんざい)はさんざんデッチあげるくせにね。
 
・偽和の問題
 ホンモノのネロリ油は値が張るので、上述のようにニセモノで市場は占拠されているといってさしつかえない。むかし、この精油を愛してやまなかったイタリアのネロラ公国のアンナ=マリア公妃がもし現代の「ネロリ」油を嗅いだら、鼻をつまんで逃げ出すだろう。
プチグレン油をネロリ油と詐称して売る奴らも多い。プチグレン油のテルペノイド類を抽出し、そこにビターオレンジエッセンス、合成リナロール、合成リナリルアセテート、合成ネロール、合成ネロリドール、合成フェニルエチルアルコール、合成デカノール、合成ノナナール、合成イソジャスモンなどをまぜて平然として売っている悪党はザラだ。誰も取り締まらないからね。
 
・毒性
 LD50値
  ラットで4.5g/kg(経口)
  ウサギで>5g/kg(経皮)
 
 刺激性・感作性
  ヒトにおいて4%濃度で、これらはいずれも認められなかった。
  マウス、ブタにおいても刺激性はみられなかった。
 
 光毒性
  なし。
 
・作用
 抗菌効果 ネロリ油は、ホンモノだったらフェノール(石炭酸)の5.5倍もの殺菌力がある。殺菌作用のスペクトラムも広い。
 
 抗真菌効果 かなり強力。ことに植物を病気にする真菌に対する効果にはみるべきものがある。
 
 その他 ネロリ油はジヒドロストレプトマイシン(抗生物質)と併用すると、人為的に結核を発症させたモルモットに若干の治癒力を発揮した。大したこともない研究結果だが、いちおうご報告しておこう。 

2014年6月17日火曜日

ナツメグ | 精油類を買うときには注意して!⑱

ナツメグ(Myristica fragrans)油
 
 ナツメグは肉荳蔲(にくずく)といわれるニクズク科の高木で、樹高は10メートルぐらいになる。雌雄異株で黄白色の花を咲かせ、球形の液果をつける。正確には、この種子の仁(にん)がニクズクで、香りがあって、中国人は7〜8世紀ごろからこれを薬用にしていた。健胃作用を利用したのである。ヨーロッパ人がこのニクズクすなわちナツメグを香味料として使いはじめたのは15世紀以降(中国人は香味料としては後代までこれを用いなかった)である。
 このニクズクの実を蒸留抽出した精油がナツメグ油で、淡い黄色を帯び、強い芳香を放つ。
 
 原産地は、インドネシア、マレー半島、スリランカ、パプアなど。
 この熟した実を前述のように、乾燥させたのち蒸留して精油をとる。
 
主要成分(%で示す)ウエストインディアン種とイーストインディアン種とがある。この2種は、それぞれ若干の成分差がある。
           ウエストインディアン種   イーストインディアン種
 α-ピネン         10.6〜13.2        19.2〜26.5
 β-ピネン          7.8〜12.1          9.7〜17.7
 サビネン         43.0〜50.7        2.2〜3.7
 ミルセン         3.4〜3.5         2.2〜3.7
 α-テルピネン        0.8〜4.2         0.8〜4.0
 リモネン          3.1〜4.4         2.7〜3.6
 1,8-シネオール      2.3〜4.2          1.5〜3.2
 γ-テルピネン       1.9〜4.7          1.9〜6.8
 テルピネン-4-オール    3.5〜6.1        2.0〜10.9
 エレミシン        1.2〜1.4        0.3〜4.6
 ミリスチシン       0.5〜0.9        3.3〜13.5
 
 イーストインディアン種ナツメグのほうが一般に調香師に好まれる。
 
・偽和の問題
 合成したモノテルペン類(ミルセン、カンフェン、テルピノレン、ピネン)を加えたり、ティートリー油や各種の植物から安上がりに抽出したミリスチシンを入れたり、脱テルペンしたナツメグ油のテルペン類を再利用して増量することが、ひんぱんに行われているのが現状と思って頂きたい。
 
・毒性
 LD50値
  ラットで0.6 - 2.6g/kg(経口)
  マウスで5g/kg(経口)
  ハムスターで5g/kg(経皮)
  ウサギで>10g/kg(経皮)
 
 刺激性・感作性
  ヒトにおいて2%濃度で、これらはいずれも認められなかった。
 
 光毒性
  試験例は報告されていない。
 
 注 ナツメグの毒性は、主としてそのミリスチシンに由来する。その毒性の強弱は、ミリスチシンの含有量に依存する。ナツメグを挽いた粉を多量に服用すると、幻覚を見たり、視覚障害が生じたり、錯乱状態になったり、異常な睡眠状態を誘発したりする。
 また、ナツメグを過剰摂取すると、嘔吐を催したり、顔面潮紅をおこしたり、ドライマウスになったり、癲癇様の発作をおこしたりする。
 これは中枢神経系に異常が起きるためである。
 
・作用
 In vitroで試験した結果、モルモットの回腸で激しい痙攣惹起作用を示した。サルにミリスチシンを投与したところ、運動機能障害と失見当識(自分がいまどこにいるか、相手が誰なのか、どうしてここにいるのか、人間だったら何者なのか、いまは何年何月何日なのか、といった認識ができなくなってしまう状態)とが生じた。ネコにミリスチシンを与えると、モルヒネを投与した場合と同様な興奮状態を呈したという報告もある。
ただし、実験ザルの失見当識というものがどういう症状を呈するのか、私にも見当がつかないが。
 
 抗菌効果 この作用は極めて強力。
 
 抗真菌効果 さして強力ではない。
 
 抗酸化作用 相当強力な抗酸化作用がウエスト・イースト両種のナツメグの精油において報告された。
 
・用途
 ナツメグ油と、それが含むミリスチシンとエレミシンは、ヒトに対して鎮静効果を発揮し、気持ちを鎮め、安心させる力がある。ナツメグ油は、駆風作用がある(あまりアルコール度数の高くないアルコール飲料〔1mlぐらい〕に、その10%程度のこの精油を入れて飲用する。腸内ガスが屁となって排出される)。ナツメグ油は、プロスタグランジン(多くの組織中にある生理活性物質の1種。降圧作用・気管支収縮・子宮収縮・血管収縮およびその正反対の血管拡張・血小板凝集の誘発またはその阻害・免疫抑制・利尿・睡眠誘発などさまざまな効果を示すホルモン様物質)の合成を阻害する働きがある。これに関連して、プロスタグランジンのせいでおこる下痢症状をなおしたケースが多々報告されている。
また、ナツメグ油は血小板の凝集を阻害することが in vitroで認められている。したがって、冠状動脈血栓症などに効果がありそうに思われる。
さらに、ナツメグ油は獣医学でも用いられてきている。用途は多岐にわたるが、とくに下痢に有効だそうである。 

2014年6月10日火曜日

〔コラム〕アロマテラピーのためのフランス語講座のおすすめ

 香りの王国は、なんといってもフランスですね。アロマテラピーがフランスで生まれたのも、当然だったのです。
 
 そこで、みなさんに、私から提案があります。
 アロマテラピーで使われるフランス語を勉強なさいませんか。
 例えば、フランス語ではラベンダーのことを「lavande(ラヴァンド)」、ローズマリーを「romarin(ロマラン)」と言います。ラベンダーは「洗う」というラテン語に由来するということ、ローズマリーのフランス名の一部「marin」が「海の」を意味することなど、このような知識をいろいろ広げるのはとても楽しいことです。 
 
 アロマテラピーで使用される精油・エッセンスの原料植物の名前や分析表に出てくる用語などを正しく覚え、それを美しく正確に発音することを勉強しましょう。また、アロマテラピーに関連する技術・人物名などをフランスではどう言っているかを知れば、あなたの愛する香りの世界、アロマの宇宙はいちだんとひろがるに違いありません。
アロマテラピーを人に教えている方も、フランス語の名前の意味や、発音の方法を通して、歴史や人名などの知識が立体的に結びついていると、教える場合にも役に立つことでしょう。
  
  ******************************
 
 私は、あなたのために、その楽しい講座を開催したいと思います。
 興味のある方は、下記にぜひご連絡下さい。詳しいことは、ご相談いたしましょう。
 
高山林太郎への直通電話
 携帯電話 080−5424−2837 
 固定電話 042−482−1179

ディル(イノンド) | 精油類を買うときには注意して!⑰

ディル(Anethum graveolens L.)油
 ユーロピアン・ディル・ハーブ油(全草油)
 ユーロピアン・ディル・シード油(種子油)
 
インド・ディル(Anethum sowa Roxb.)油
 シード油(種子油)
 
 いずれもセリ科の1〜2年草。和名はイノンド。この全草、または種子だけを水蒸気蒸留して精油を抽出する。
 原産地:ハンガリー、フィンランド、その他のヨーロッパ諸国、ならびにインドなど。
 
 古くから香味料として用いられてきた植物で、春にタネをまき、7月ごろ未熟なときに収穫して、干して追熟させて、果実をとる。この果実の種子はソースやカレーなどにまぜて、パン・ケーキ等の香り付けに利用する。
 中国伝統医学では、この種子を「蒔蘿子(じらし)」と呼び、駆風剤・興奮剤などに使う。
 また、ヨーロッパではディルの若葉を摘んで、スープ、ソース、ピクルスの香り付けに用いる。
 日本には江戸時代にヨーロッパから入ってきた。このスペイン語eneldoから、日本語としては奇妙な響きをもつ「イノンド」ということばができた。
 
主要成分(%で示す)
           全草     種子    インド・ディル種子
 リモネン     20〜65  40〜68  11〜34
 α-フェランドレン 3〜58   0.4〜30   4〜11
 カルボン     0.2〜2    54    30〜49
 ジヒドロカルボン 1〜5    0.5〜5    0.1〜11
 ディルアピオール 0〜55    20    3〜67
 (正確には、3,9-オキシ-p-メント-1-エン)
 ミリスチシン   0〜7    0〜7     痕跡量
 
 
・偽和の問題
 合成したリモネンで稀釈したり、合成カルボンやキャラウェイ(ヒメウイキョウ)油を添加したりして増量するケースがひんぱんにある。
 
・毒性
 LD50値 標記の2種とも同じと考えてよい。
  ラットで4g/kg(経口)、ウサギで>5g/kg(経皮)
 
 刺激性・感作性
  ヒトにおいて4%濃度で、これらはいずれも認められなかった。
 
 光毒性
  なし。
 
・作用
 ユーロピアンディル油は、体外に取り出したモルモットの回腸で(すなわちin vitroで)、まず強い痙攣惹起作用を発揮し、ついで鎮痙作用を示した。
 ディルアピオールはネコの子宮にたいして鎮痙作用をあらわした。これを多量に投与したところ、子宮が麻痺した。
 
 抗菌効果 いろいろな研究によって、ディル油(全草油・シード油とも)は広いスペクトラムにわたってかなり強力な抗菌力を示すことが判明している。
 
 抗真菌効果 全草油もシード油も、強力な抗真菌効果がある。
 
 ユーロピアン・ディル油(全草油・シード油とも)は抗酸化作用は認められない。
 
 CNVの波形では、ディル油はみな鎮静作用があることがわかっている。
 Anethum graveolensのシード油ならびにA. sowa油は、いずれも乳児・小児・妊婦には禁忌(神経毒性があり、また流産をひきおこしかねない恐れがあるとされる)。 

2014年6月3日火曜日

ティートリー | 精油類を買うときには注意して!⑯

ティートリー(Melaleuca alternifolia)油
 
 フトモモ科の木本ティートリーの主要なものは
  学名:Melaleuca alternifolia terpinene-4-olifera
     M. linariifolia cineolifera
     M. dissiflora
     M. radiata
  その他にも多くの種類がある。
 
 葉・小枝を水蒸気蒸留して得る。原産地はオーストラリア。
 
主要成分(%で示す)Melaleuca alternifoliaの場合
 α-ピネン       2.2
 α-テルピネン     7.5
 1,8-シネオール       5.6(以上。多くても15%未満)
 γ-テルピネン     17.5
 p-シメン        3.0
 テルピネン-4-オール 45
 α-テルピネオール    2.7
 テルピノレン      3.1
 
 以上の数字は、あくまで一つの大まかな目安と考えて頂きたい。ティートリー油は、その原木の種類によりその成分には大きな差があるからだ。ケモタイプも多い。当然それらの成分には多大な差が生じる。オーストラリアの当局ではテルピネン-4-オールの成分比を基準にM. alternifoliaのスタンダードを定めている。
 
・偽和の問題
 テルピネン-4-オールの比率を当局がスタンダードとしているために、さまざまな変種からこの成分を抽出して、その基準を満足させないM. alternifolia油に、ほかの変種から抽出したテルピネン-4-オールを添加したり、各種のテルペン類を加えて偽和するケースが多い。
 
・毒性
 LD50値
  ラットで1.9g/kg(経口)、ウサギで>5g/kg(経皮)
 
 刺激性・感作性
  ヒトにおいて1%濃度で、いずれも認められない。
 1,8-シネオールは感作性があることで知られている。したがって、1,8-シネオール分があまり多いものは、これを人為的に減らしている。
 ティートリー油の一部は、一時食品添加物として認められていたこともある(現在はどうか知らないが)。
 
 光毒性
  報告された例はない。
 
・作用
 モルモットの回腸において(in vivoで)、はじめ痙攣惹起作用を示し、次いで鎮痙作用をあらわした。
 
 抗菌作用 そのティートリー油の成分に依存して、変動がある。1,8-シネオールは抗菌力は弱いが、テルピネン-4-オールの抗菌力は強力で、p-シメンはさらにいちだんとその力が強い。したがって、量的に少なくても、この作用は無視できない。ティートリー油は広いスペクトラムの抗菌・殺菌作用を発揮する。私はラベンダー油よりも(用途によりけりだが)多くのケースでティートリー油を勧めている。
 
 抗真菌効果 Candida albicans(カンジダ菌)を含む多種多様の真菌に対してパワフルな効果がある。
 
 抗酸化作用 なし。
 
・その他の用途
 皮膚炎に対して5%濃度で患部に塗布して効果があったという報告がある。また、歯磨きに際して、このティートリー油を使用すると歯周病・虫歯の予防になる。
 また、日本には幸いにしていないがオーストラリアなどに生息する毒グモ、また日本にもいる毒ヘビに咬まれた場合、手早く毒を吸い出してからティートリー油をつけると有効である。もちろん念のためそのあとで医師に診てもらうことは言うまでもない。水虫に効き目があるし、やけどにはラベンダー油よりも効果がある。ティートリー油は、オーストラリア人の家庭の常備薬となっている。