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2014年7月29日火曜日

バラ | 精油・アブソリュート類を買うときには注意して!(23)

バラ油
 
 バラ油と一口に言っても、さまざまな種類がある。
 ◎ ブルガリアン ローズ油、ダマスク ローズ油、ローズ オットー、ターキッシュ ローズ油(いずれも同じ種類のバラ油)
 ・学名 上記のバラはRosa damascena(ロサ・ダマスケナ〔ダマセナなどとは決して発音しないこと〕。ダマスクローズの意)
 ◎ フレンチ ローズ油、モロカンローズ油、キャベジ ローズ油(いずれも同じ種類のバラ油)
 ・学名 上記のバラはRosa centifolia(ロサ・ケンティフォリア、100も花弁をもつ〔これは大げさだが〕バラの意)
 ◎そのほかのバラ油 ガリカバラ油(これをフレンチローズ油としている人もいる)
 Rosa gallica(ロサ・ガリカ) ガリカバラ(ガリア〔今日のフランス・スイス〕のバラの意)
 Rosa alba(ロサ・アルバ) アルババラ(白バラの意)
 
 バラはバラ科の双子葉植物で、落葉または常緑の低木。またはつる性の木本。
 茎・葉にトゲが多い。北半球の亜寒帯から熱帯にかけて分布。200種の野生種がある。美しい香り高い花をつけ、香料の原料にもされる。
 現在、私たちが目にするバラは、複雑な交配育種(ことに1800年以降の)の結果、つくられたものである。日本古来のバラとしてはノイバラ、テリハノイバラ、タカネバラ、ハマナスなど十数種があげられる。
 
 精油 早朝(おそくとも午前10時ごろまで)に採取したバラの花を水蒸気蒸留して抽出。ブルガリアはバラ(ダマスクローズ)の名産地で、この地を支配していたトルコ人が持ち込んだものである。
 アブソリュート ベンゼン、アセトン、四塩化炭素、石油エーテルなどの有機溶剤にバラの花弁を浸し、花のワックスと芳香成分とが一体になった「コンクリート」をつくり、これを78℃で沸騰するエチルアルコールで蒸留してアブソリュートを得る。アブソリュートは、最終産物に発ガン性溶剤が残るため、原則としてアロマテラピーでは用いられない。
 
主要成分(%で示す) 各種のバラの大まかな目安と考えて頂きたい。
              バラ油     バラアブソリュート
 シトロネロール     18〜55      18〜22
 ゲラニオール      12〜40      10〜15
 ネロール         3〜9        3〜9
 フェニルエチルアルコール 1〜3       60〜65
 ステアロプテン       0         8〜22
 
 微小成分(精油・アブソリュート)
 ローズオキシド  0.1〜0.5
 β-ダマスコン   0.01
 β-ダマスケノン  0.14
 β-イオノン    痕跡量〜0.03
 
 注 バラ油には、少なく見積もっても300種もの成分が含まれている。
 そのうち、わずか0.14%しか含まれていないβ-ダマスケノンが、あのバラのいかにもバラらしい香りのもととなっている。
 
・偽和の問題
 精油にせよアブソリュートにせよ、バラは市場でもっとも高価なものの一つなので、偽和の技術も巧妙を極めていて、看破するのは容易ではない。偽和には、数多くの合成化学物質が用いられ、少量の真正成分を大幅に増量させている。いずれも合成したフェニルエチルアルコール、ジエチルフタレート、シトロネロール、ゲラニオール、イソオイゲノール、ヘリオトロピン、シクラマール、アミルサリチレートが多量に加えられ、さらにゼラニウム油からとったロジノールなども添加したものが「バラ油」と称して売られているものの大半だ。まず日本では100%純粋なバラ油というものは、もはや入手不可能だと思っていただきたい。
 アブソリュートもパルマローザ油の成分(というか、やはり合成したもの)、ペルーバルサム油、コスタス油、クローブ花芽油などを加えて偽和するのが、当然のように行われている。
 ローズオットーも、最初に蒸留した真正バラ油と、再留したバラ油とを組み合わせてフェニルエチルアルコール分を大幅に水増ししてあるのがふつうである。「バラ油」にせよ、「バラ アブソリュート」にせよ、薬効を期待するならもっとずっと安価な別の精油を利用した方が、フトコロも痛まないし、体にも良いだろう。
 
・毒性
 LD50値
  Rosa damascena および R. centifoliaの各精油では
   ラットで>5g/kg(経口)
   ウサギで2.5g/kg(経皮)
  Rosa centifoliaのアブソリュートでは
   ラットで>5g/kg(経口)
   経皮値は定かでない。
 
 刺激性・感作性
  ヒトにおいて2%濃度で認められず(精油・アブソリュートの双方とも)。
 
 光毒性
  報告例なし。
 
・作用(もちろんホンモノでなければ、いわゆる「効果」など論じるのはナンセンスである)
 薬理作用 各種のバラ油・アブソリュートで、モルモットの回腸においてin vivoで鎮痙作用が認められた。
 抗菌効果 ブルガリアのカザンリク産のRosa damascenaで若干の抗菌作用が確認されている。
 
 抗真菌効果 報告例なし。
 
 その他の作用 バラ油はマウスの活動に一切影響を及ぼさなかった。CNVでも特段の鎮静ないし刺激効果は示さないことがわかった。
 この精油は女性の冷感症と男性のインポテンスに有効と言われるが、正確なデータに基づいた報告ではない(第一、このような秘事の正確なデータなど、どうすればとれるというのだろう)。 
 また、この精油は女性特有の各種疾患に有効だとされるが、あまり大げさに受け止めるべきではないと思う。理由は、おおむね上に述べたことと同様である。

2014年7月22日火曜日

パチュリ Pogostemon cablin | 精油類を買うときには注意して!(22)

パチュリ油
 
 学名 Pogostemon cablin Benth, 別名P. patchouli Hook
    厳密には、これらは少し異なった種類。しかし、用途は同じで、産地でも混同されることが多い。ほかにも近似種は30種近くある。「パチョリ」とも呼ぶ。
 
 特徴 東南アジア、マレーシアやインドなどを原産地とし、これらの地域で栽培されるシソ科の双子葉の多年草(亜低木化することもある)。高さは30〜80cm。多くは、葉を4〜5日干して独特の芳香を持つ精油を蒸留する。正確に言うと、シソ科ヒゲオシベ属に分類されるシソ科のハーブで、ヨーロッパの各種のシソ科ハーブ類とは大きな違いがある植物。
  なお、パチュリ油を保管する場合には、光のあたらない、15℃を超えない恒温の場所で保存するのがよいと言われる。
 
主要成分(%で示す)
 パチュリアルコール    31〜46
 α-グアイエン       10〜15
 カリオフィレン      2〜4
 α-ブルネセン       13〜17
 セーシェレン       6〜9.4
 α-パチュリン       3.9〜5.9
 β-パチュリン       1.7〜4.8
 ポゴストール       0〜2.7
 
 含有成分の鉄分を人為的に除去することもある。こうすると、香りに「軽み」が出るためである。上にはあげなかったが、微小成分類、痕跡量成分の(+)-ノルパチュレノール(0.5%以下の含有量)、ノルテトラパチュロール(含有量0.001%)などが、バチュリ油独特の芳香に大きく貢献する。
 
・偽和の問題
 シダーウッド油、クローブ油から抽出したセスキテルペン類、またシダーウッド油の誘導体類、さらにメチルアビエテート、ヒドロアビエテートアルコール類、ベチバー油を抽出したあとの残留物(つまりカスだ)、カンファー油抽出時の残留物、ガージャンバルサム油(これはα-グルユネンの存在でそれと検出できる)、コパイババルサム油、ヒマシ油、イソボルニルアセテートなどをめちゃくちゃに加えて、カットにカットを重ねた(すなわち増量された)パチュリ油が、市場をほとんど占拠している。あなたのお手持ちのパチュリ油も99.9%の確率でこの手の製品である。
 
・毒性
 LD50値
  ラットで>5g/kg(経口)
  ウサギで>5g/kg(経皮)
 
 刺激性・感作性
  ヒトにおいて20%濃度でいずれもゼロ。
  ただし皮膚病患者の場合は、0.1%以下の濃度で用いるべきであると、マリア・リズ=バルチン博士は言っている。
 
 光毒性
  報告例なし。
 
・作用(もちろんホンモノでなければ、いわゆる「効果」など論じるのはナンセンスである)
 薬理作用 モルモットの回腸に、in vitroで、強い鎮痙効果を示した。
 抗菌効果 試験に用いるパチュリ油の種類によって、変動がある。一定の抗菌効果は期待できるとだけ言っておこう。蒸散させる方法でも、同様のことがいえる。
 
 抗真菌効果 きわめて弱い抗真菌力しかない。
 
 その他の作用 抗酸化力はない。パチュリ油をベースにしたスプレー剤が、入院中の患者の気分を明るくしたという報告がある。
 パチュリ油を蒸散させてマウスに嗅がせたところ、その動作が目立って活発化したとの例がある。
 
随想①
 私は、パチュリ油の香りを嗅ぐたびに、江戸時代の俳人、与謝蕪村(よさ・ぶそん)の『白梅(はくばい)や墨芳(かんば)しき鴻臚館(こうろかん)』という句を思い出す。鴻臚館とは王朝時代、外国使臣接待のため、太宰府、京都、難波の3カ所に設けられた迎賓館。白梅香る鴻臚館の広間で、内外の貴紳が集まり、詩文の献酬が交わされ、芳しい墨の香りが部屋のなかにゆかしく漂うようすを詠んだ秀句である。この墨の香りこそ、パチュリ油の芳香なのである。加えて白梅の花の香りも流れ、白い梅の花と墨痕の黒さとの対比も連想させ、蕪村の共感覚的なところを匂わせて、私を酔わせて止まない。
 
随想②
 インドなどでは、衣服や枕などにこのパチュリ油で香りづけをする。
 インドから英国に送られたショールには、パチュリの香りがして(ウール地を食う虫よけにパチュリの葉をそのままはさんだらしい)、それが英国人の心を捉えた。私も、こどものころ母が持っていたこの香りのするショールをいつも思い出す。中国伝統医学では、このパチュリ(藿香〔かっこう〕)を感冒、嘔吐、下痢、産前産後の腹痛などに用いる。 

2014年7月15日火曜日

バジル Ocimum basilicum | 精油類を買うときには注意して!(21)

バジル(Ocimum basilicum)油
 
 バジルはシソ科の双子葉草本。一年草または多年草。亜低木化することもある。和名はメボウキという。この小さい種子を皿などに入れて水を注いで放置すると、寒天状の物質ができる。江戸時代に到来したハーブである。日本人はこの寒天のような物質を利用し、目に入ったゴミをとったり、かすみ目を治療したりした。そこで「目箒(めぼうき)」の和名がつけられた。イタリア料理でよく利用されることから、そのイタリア語名バジリコの名も日本で広く知られている。
 
 原産地 熱帯アジア。しかし、現在では温暖な世界各地(フランス、米国、イタリアなど)で植えられている。日本でも最近では野菜としてスーパーマーケットなどで売っている。
 
歴史 ギリシャでは、古くからこれを貴族などが香料として使ったので、ギリシャでbasilicon(バシリコン、高貴な、あるいは王の、の意)と呼んだ。ギリシャ語では「王」のことをbasilius,バシレウスという。しかし、アフリカの砂漠に生息し、ひと睨み、あるいはひと息で人を殺すという伝説上の爬虫類的な怪物、basilisk(バシリスク)との混同が生じ、この怪物の毒気を消す霊力のある草と信じられたりもした。Ocimumという属名は、以前にはOcymumと表わした。
 ヨーロッパ、アフリカ、インドなどでは、昔から香味料、矯臭料、鎮咳薬、解熱薬として利用した。また、野菜としてサラダ・スープ・パスタ・ピザに使ってきた。メボウキ属にはいろいろな種類があるが、いずれも香味料とか薬用植物とかとして、人びとに活用される。
 
精油 花が咲いた先端部分と葉とを蒸留して抽出する。いまではどうか知らないが、私がアロマテラピーを日本に紹介した当時(1985年)には、香料会社ではバジル油のことを「ベージル油」と称していた。スウィート感・清涼感・アニス様・花様の香りを持つ香水材料の一つとして使われる精油である。
 
ケモタイプについて
  スウィートバジル油(コモンバジル油) ー リナロールケモタイプ
  エキゾチックバジル油 ー カンファー・エストラゴールケモタイプ
  そのほか、メチルシンナメートケモタイプなどさまざまなものがある。
  一般にスウィートバジル油を「バジル」油の代表格にしている。
 
主要成分(%で示す)
            スウィート種   エキゾチック種   メチルシンナメート種
 1,8-シネオール     3〜27      3〜7        5.6
 メチルカビコール    0〜30     68〜87       2.2
 メチルオイゲノール   0〜7       0.5〜2.4       0
 オイゲノール      0〜7       痕跡量        0
 Z-メチルシンナメート   0         0         4.7
 E-メチルシンナメート   0         0         32
 リナロール       44〜69     0.3〜2.2       41.7
 β-カリオフィレン    0.7〜14.4       0         0
 
 (注)各種のケモタイプにより、また同じ種類のバジルでも、生育地により成分の変動はきわめて大きい。上記の値も、いちおうの目安ととっていただきたい。また、バジルはその各部位によっても、組成成分がそれぞれ異なる。
 
・偽和の問題
 エキゾチックバジル油にはとくに、合成リナロールが加えられるケースが多い。
 
・毒性
 LD50値 スウィートバジル油
  ラットで1.4(<3.5)g/kg(経口)
  ウサギで0.5g/kg(経皮)
 
 刺激性・感作性
  ヒトにおいて、4%濃度で、いずれもゼロ。
 
 光毒性
  報告例なし。
  (注)メチルカビコールは感作性があることが疑われているので、人にもよるが、感作性を示す反応が生じることが考えられる。その他、フィジー産のメチルシンナメートケモタイプなどについては、まだ試験例がない。
 
・作用
 薬理作用 in vitroでテストしたモルモットの回腸で、痙攣惹起作用を示し、ついで鎮痙効果を表わした。
 抗菌効果 各種の細菌にたいして、強い抗菌力を示した例が、多く報告されている。蒸散させても、この力を発揮する。
 
 抗真菌効果 スウィートバジル油は、広範な種類の真菌にたいして強力な効果がある。メチルカビコール分の多いバジル油もパワフルな効果を示す。
 
 その他の作用 バジル油は、CNVの波形観察で脳への刺激作用があることが明らかになっている。なお、バジル油には抗酸化活性はみられない。 

2014年7月8日火曜日

パイン(スコッチ) | 精油類を買うときには注意して!⑳

パイン(スコッチ)(Pinus sylvestris)油
 
 スコッチパイン(マツ)の針葉・球果を蒸留して抽出する。
 原産地は、北欧、シベリア、スカンジナビア。現在ではもっぱらスコットランド、ノルウェイで採油される。
 スコッチパインはマツ科の大きな針葉樹。80種にのぼる種類がある。赤みがかった樹皮、灰緑色の針葉が特徴。
 
主要成分
 α-ピネン
 β-ピネン
 リモネン
 ボルネオール
 ボルニルアセテート
 γ-カレン
 
 いずれも、原木の産地・種類により大幅な変動があるため、一概に数値表示できない。
 
・偽和の問題
 他の木々に由来した(あるいは合成した)カンフェン、ピネン類、イソボルニルアセテートなどが、偽和・増量の目的で利用される。ダニエル・ペノエル博士らによると、近年では発ガン性のある溶剤で、これをアブソリュートとして抽出するにいたっており、そのことによる労働者への健康被害が多発している。
 
・毒性
 LD50値
  ラットで>5g/kg(経口)
  ウサギで>5g/kg(経皮)
 
 刺激性・感作性
  ヒトにおいて20%濃度で、これらはいずれも認められなかった。
 
 光毒性
  なし。
 
 
・作用
 特筆すべき薬理学的効果は報告されていないが、いちおうあげておく。
 
 抗菌効果
  細菌類の5分の4はこれによって多かれ少なかれ影響をうける。しかし、パイン油以外の精油類と併用して、その効果が増大することがわかっている。パイン油類は結核菌には、別段影響を及ぼさない。マツ林の空気が肺結核に有効だというのは、医学的な根拠のないデタラメである。
  ただ、この精油を、週に1回ずつ、結核を人為的に発症させたモルモットに投与したところ(オリーブ油に2%濃度に稀釈して筋肉注射)、治療効果が認められた。
 
 抗真菌効果 
  各種の真菌に一定の効果がある。ただし、病原性真菌類にたいする効果は弱く、期待できないといったほうがよい。 

2014年6月24日火曜日

ネロリ(オレンジ花) | 精油類を買うときには注意して!⑲

以前から予定していた、ジャン・バルネ博士についての記事は、次回にまわさせていただきます。
可能であれば、バルネ博士がインドシナ戦争に従軍して負傷兵の治療にあたっている際の日本初公開の写真も載せたいと考えています。
高山 林太郎

ネロリ(Citrus aurantium ssp. amara 、別名 C. bigaradia)油
 
 原産地はインド。ただし現在の主要産地は、イタリア、フランス、モロッコ、チュニジアなど。
 抽出方法はビガラディアオレンジ(C. bigaradia)の花を蒸留して抽出。
 
主要成分(%で示す)
 リナロール      23.8
 リナリルアセテート  68.5
 ゲラニオール     5.9
 リモネン       痕跡量
 
 以上はもとよりいちおうの目安であることは、いうまでもない。市場に出まわっているもののほとんどは合成成分をテンコ盛りしたニセモノと考えてよい。こうしたニセモノ精油はホンモノの、つまりピュアなネロリ油とは成分がおよそ異なっている。リナリルアセテート(もちろん合成品だ)だけしか入っていない、ひどい「ネロリ油」もたくさん売られている。こんなことをする悪人どもは、ガラスをダイヤと偽って販売する奴らと完全に同罪だ。つまり詐欺師だということである。こんな連中が逮捕されないのは、警察・検察関係者がこの方面の知識を学ぼうとしない、税金泥棒の集団だからである。ひどい冤罪(えんざい)はさんざんデッチあげるくせにね。
 
・偽和の問題
 ホンモノのネロリ油は値が張るので、上述のようにニセモノで市場は占拠されているといってさしつかえない。むかし、この精油を愛してやまなかったイタリアのネロラ公国のアンナ=マリア公妃がもし現代の「ネロリ」油を嗅いだら、鼻をつまんで逃げ出すだろう。
プチグレン油をネロリ油と詐称して売る奴らも多い。プチグレン油のテルペノイド類を抽出し、そこにビターオレンジエッセンス、合成リナロール、合成リナリルアセテート、合成ネロール、合成ネロリドール、合成フェニルエチルアルコール、合成デカノール、合成ノナナール、合成イソジャスモンなどをまぜて平然として売っている悪党はザラだ。誰も取り締まらないからね。
 
・毒性
 LD50値
  ラットで4.5g/kg(経口)
  ウサギで>5g/kg(経皮)
 
 刺激性・感作性
  ヒトにおいて4%濃度で、これらはいずれも認められなかった。
  マウス、ブタにおいても刺激性はみられなかった。
 
 光毒性
  なし。
 
・作用
 抗菌効果 ネロリ油は、ホンモノだったらフェノール(石炭酸)の5.5倍もの殺菌力がある。殺菌作用のスペクトラムも広い。
 
 抗真菌効果 かなり強力。ことに植物を病気にする真菌に対する効果にはみるべきものがある。
 
 その他 ネロリ油はジヒドロストレプトマイシン(抗生物質)と併用すると、人為的に結核を発症させたモルモットに若干の治癒力を発揮した。大したこともない研究結果だが、いちおうご報告しておこう。 

2014年6月17日火曜日

ナツメグ | 精油類を買うときには注意して!⑱

ナツメグ(Myristica fragrans)油
 
 ナツメグは肉荳蔲(にくずく)といわれるニクズク科の高木で、樹高は10メートルぐらいになる。雌雄異株で黄白色の花を咲かせ、球形の液果をつける。正確には、この種子の仁(にん)がニクズクで、香りがあって、中国人は7〜8世紀ごろからこれを薬用にしていた。健胃作用を利用したのである。ヨーロッパ人がこのニクズクすなわちナツメグを香味料として使いはじめたのは15世紀以降(中国人は香味料としては後代までこれを用いなかった)である。
 このニクズクの実を蒸留抽出した精油がナツメグ油で、淡い黄色を帯び、強い芳香を放つ。
 
 原産地は、インドネシア、マレー半島、スリランカ、パプアなど。
 この熟した実を前述のように、乾燥させたのち蒸留して精油をとる。
 
主要成分(%で示す)ウエストインディアン種とイーストインディアン種とがある。この2種は、それぞれ若干の成分差がある。
           ウエストインディアン種   イーストインディアン種
 α-ピネン         10.6〜13.2        19.2〜26.5
 β-ピネン          7.8〜12.1          9.7〜17.7
 サビネン         43.0〜50.7        2.2〜3.7
 ミルセン         3.4〜3.5         2.2〜3.7
 α-テルピネン        0.8〜4.2         0.8〜4.0
 リモネン          3.1〜4.4         2.7〜3.6
 1,8-シネオール      2.3〜4.2          1.5〜3.2
 γ-テルピネン       1.9〜4.7          1.9〜6.8
 テルピネン-4-オール    3.5〜6.1        2.0〜10.9
 エレミシン        1.2〜1.4        0.3〜4.6
 ミリスチシン       0.5〜0.9        3.3〜13.5
 
 イーストインディアン種ナツメグのほうが一般に調香師に好まれる。
 
・偽和の問題
 合成したモノテルペン類(ミルセン、カンフェン、テルピノレン、ピネン)を加えたり、ティートリー油や各種の植物から安上がりに抽出したミリスチシンを入れたり、脱テルペンしたナツメグ油のテルペン類を再利用して増量することが、ひんぱんに行われているのが現状と思って頂きたい。
 
・毒性
 LD50値
  ラットで0.6 - 2.6g/kg(経口)
  マウスで5g/kg(経口)
  ハムスターで5g/kg(経皮)
  ウサギで>10g/kg(経皮)
 
 刺激性・感作性
  ヒトにおいて2%濃度で、これらはいずれも認められなかった。
 
 光毒性
  試験例は報告されていない。
 
 注 ナツメグの毒性は、主としてそのミリスチシンに由来する。その毒性の強弱は、ミリスチシンの含有量に依存する。ナツメグを挽いた粉を多量に服用すると、幻覚を見たり、視覚障害が生じたり、錯乱状態になったり、異常な睡眠状態を誘発したりする。
 また、ナツメグを過剰摂取すると、嘔吐を催したり、顔面潮紅をおこしたり、ドライマウスになったり、癲癇様の発作をおこしたりする。
 これは中枢神経系に異常が起きるためである。
 
・作用
 In vitroで試験した結果、モルモットの回腸で激しい痙攣惹起作用を示した。サルにミリスチシンを投与したところ、運動機能障害と失見当識(自分がいまどこにいるか、相手が誰なのか、どうしてここにいるのか、人間だったら何者なのか、いまは何年何月何日なのか、といった認識ができなくなってしまう状態)とが生じた。ネコにミリスチシンを与えると、モルヒネを投与した場合と同様な興奮状態を呈したという報告もある。
ただし、実験ザルの失見当識というものがどういう症状を呈するのか、私にも見当がつかないが。
 
 抗菌効果 この作用は極めて強力。
 
 抗真菌効果 さして強力ではない。
 
 抗酸化作用 相当強力な抗酸化作用がウエスト・イースト両種のナツメグの精油において報告された。
 
・用途
 ナツメグ油と、それが含むミリスチシンとエレミシンは、ヒトに対して鎮静効果を発揮し、気持ちを鎮め、安心させる力がある。ナツメグ油は、駆風作用がある(あまりアルコール度数の高くないアルコール飲料〔1mlぐらい〕に、その10%程度のこの精油を入れて飲用する。腸内ガスが屁となって排出される)。ナツメグ油は、プロスタグランジン(多くの組織中にある生理活性物質の1種。降圧作用・気管支収縮・子宮収縮・血管収縮およびその正反対の血管拡張・血小板凝集の誘発またはその阻害・免疫抑制・利尿・睡眠誘発などさまざまな効果を示すホルモン様物質)の合成を阻害する働きがある。これに関連して、プロスタグランジンのせいでおこる下痢症状をなおしたケースが多々報告されている。
また、ナツメグ油は血小板の凝集を阻害することが in vitroで認められている。したがって、冠状動脈血栓症などに効果がありそうに思われる。
さらに、ナツメグ油は獣医学でも用いられてきている。用途は多岐にわたるが、とくに下痢に有効だそうである。 

2014年6月10日火曜日

ディル(イノンド) | 精油類を買うときには注意して!⑰

ディル(Anethum graveolens L.)油
 ユーロピアン・ディル・ハーブ油(全草油)
 ユーロピアン・ディル・シード油(種子油)
 
インド・ディル(Anethum sowa Roxb.)油
 シード油(種子油)
 
 いずれもセリ科の1〜2年草。和名はイノンド。この全草、または種子だけを水蒸気蒸留して精油を抽出する。
 原産地:ハンガリー、フィンランド、その他のヨーロッパ諸国、ならびにインドなど。
 
 古くから香味料として用いられてきた植物で、春にタネをまき、7月ごろ未熟なときに収穫して、干して追熟させて、果実をとる。この果実の種子はソースやカレーなどにまぜて、パン・ケーキ等の香り付けに利用する。
 中国伝統医学では、この種子を「蒔蘿子(じらし)」と呼び、駆風剤・興奮剤などに使う。
 また、ヨーロッパではディルの若葉を摘んで、スープ、ソース、ピクルスの香り付けに用いる。
 日本には江戸時代にヨーロッパから入ってきた。このスペイン語eneldoから、日本語としては奇妙な響きをもつ「イノンド」ということばができた。
 
主要成分(%で示す)
           全草     種子    インド・ディル種子
 リモネン     20〜65  40〜68  11〜34
 α-フェランドレン 3〜58   0.4〜30   4〜11
 カルボン     0.2〜2    54    30〜49
 ジヒドロカルボン 1〜5    0.5〜5    0.1〜11
 ディルアピオール 0〜55    20    3〜67
 (正確には、3,9-オキシ-p-メント-1-エン)
 ミリスチシン   0〜7    0〜7     痕跡量
 
 
・偽和の問題
 合成したリモネンで稀釈したり、合成カルボンやキャラウェイ(ヒメウイキョウ)油を添加したりして増量するケースがひんぱんにある。
 
・毒性
 LD50値 標記の2種とも同じと考えてよい。
  ラットで4g/kg(経口)、ウサギで>5g/kg(経皮)
 
 刺激性・感作性
  ヒトにおいて4%濃度で、これらはいずれも認められなかった。
 
 光毒性
  なし。
 
・作用
 ユーロピアンディル油は、体外に取り出したモルモットの回腸で(すなわちin vitroで)、まず強い痙攣惹起作用を発揮し、ついで鎮痙作用を示した。
 ディルアピオールはネコの子宮にたいして鎮痙作用をあらわした。これを多量に投与したところ、子宮が麻痺した。
 
 抗菌効果 いろいろな研究によって、ディル油(全草油・シード油とも)は広いスペクトラムにわたってかなり強力な抗菌力を示すことが判明している。
 
 抗真菌効果 全草油もシード油も、強力な抗真菌効果がある。
 
 ユーロピアン・ディル油(全草油・シード油とも)は抗酸化作用は認められない。
 
 CNVの波形では、ディル油はみな鎮静作用があることがわかっている。
 Anethum graveolensのシード油ならびにA. sowa油は、いずれも乳児・小児・妊婦には禁忌(神経毒性があり、また流産をひきおこしかねない恐れがあるとされる)。 

2014年6月3日火曜日

ティートリー | 精油類を買うときには注意して!⑯

ティートリー(Melaleuca alternifolia)油
 
 フトモモ科の木本ティートリーの主要なものは
  学名:Melaleuca alternifolia terpinene-4-olifera
     M. linariifolia cineolifera
     M. dissiflora
     M. radiata
  その他にも多くの種類がある。
 
 葉・小枝を水蒸気蒸留して得る。原産地はオーストラリア。
 
主要成分(%で示す)Melaleuca alternifoliaの場合
 α-ピネン       2.2
 α-テルピネン     7.5
 1,8-シネオール       5.6(以上。多くても15%未満)
 γ-テルピネン     17.5
 p-シメン        3.0
 テルピネン-4-オール 45
 α-テルピネオール    2.7
 テルピノレン      3.1
 
 以上の数字は、あくまで一つの大まかな目安と考えて頂きたい。ティートリー油は、その原木の種類によりその成分には大きな差があるからだ。ケモタイプも多い。当然それらの成分には多大な差が生じる。オーストラリアの当局ではテルピネン-4-オールの成分比を基準にM. alternifoliaのスタンダードを定めている。
 
・偽和の問題
 テルピネン-4-オールの比率を当局がスタンダードとしているために、さまざまな変種からこの成分を抽出して、その基準を満足させないM. alternifolia油に、ほかの変種から抽出したテルピネン-4-オールを添加したり、各種のテルペン類を加えて偽和するケースが多い。
 
・毒性
 LD50値
  ラットで1.9g/kg(経口)、ウサギで>5g/kg(経皮)
 
 刺激性・感作性
  ヒトにおいて1%濃度で、いずれも認められない。
 1,8-シネオールは感作性があることで知られている。したがって、1,8-シネオール分があまり多いものは、これを人為的に減らしている。
 ティートリー油の一部は、一時食品添加物として認められていたこともある(現在はどうか知らないが)。
 
 光毒性
  報告された例はない。
 
・作用
 モルモットの回腸において(in vivoで)、はじめ痙攣惹起作用を示し、次いで鎮痙作用をあらわした。
 
 抗菌作用 そのティートリー油の成分に依存して、変動がある。1,8-シネオールは抗菌力は弱いが、テルピネン-4-オールの抗菌力は強力で、p-シメンはさらにいちだんとその力が強い。したがって、量的に少なくても、この作用は無視できない。ティートリー油は広いスペクトラムの抗菌・殺菌作用を発揮する。私はラベンダー油よりも(用途によりけりだが)多くのケースでティートリー油を勧めている。
 
 抗真菌効果 Candida albicans(カンジダ菌)を含む多種多様の真菌に対してパワフルな効果がある。
 
 抗酸化作用 なし。
 
・その他の用途
 皮膚炎に対して5%濃度で患部に塗布して効果があったという報告がある。また、歯磨きに際して、このティートリー油を使用すると歯周病・虫歯の予防になる。
 また、日本には幸いにしていないがオーストラリアなどに生息する毒グモ、また日本にもいる毒ヘビに咬まれた場合、手早く毒を吸い出してからティートリー油をつけると有効である。もちろん念のためそのあとで医師に診てもらうことは言うまでもない。水虫に効き目があるし、やけどにはラベンダー油よりも効果がある。ティートリー油は、オーストラリア人の家庭の常備薬となっている。 

2014年5月21日水曜日

タイム | 精油類を買うときには注意して!⑮

タイム(Thymus vulgaris)油
 
 シソ科の小低木(生長してもせいぜい30〜40cmぐらいにしかならない)タイムは、昔からヨーロッパでひろく薬用され、また料理の香味料として使用されてきた。
 
 タイムには、さまざまなケモタイプがある。その主要なものをあげる。
 
 Thymus vulgaris L. geranioliferum(ゲラニオールケモタイプ)
  モノテルペノールのゲラニオールを主成分とする。
 Thymus vulgaris L. linaloliferum(リナロールケモタイプ)
  モノテルペノールのリナロールを60〜80%含有する。
 Thymus vulgaris L. paracymeniferum(パラシメンケモタイプ)
  モノテルペンのパラシメンが主要成分。
 Thymus vulgaris L. thujanoliferum(ツヤノールケモタイプ)
  モノテルペノール類の(+)-トランスツヤノール-4,(+)-テルピネン-1-オール-4,(-)-リナロールを合計50%含む。
 Thymus vulgaris L. thymoliferum(チモールケモタイプ)
  テルペンフェノール類(チモールおよびカルバクロール)を成分にもつ。
 
 そのほかに、セルビルムあるいはワイルドタイムと呼ばれているものがある。学名はThymus serpyllum L. という。タイムと成分上、大差はない。
 
 また、スパニッシュタイム、別名レッドタイム、ホワイトタイム、スウィートタイムなどという呼び方もある。
 いずれも、タイムは生乾きのものを水蒸気蒸留して精油を抽出する。タイムの産地は、スペイン、フランス、イタリア、トルコ、東欧諸国、米国など。日本のイブキジャコウソウはセルピルムのごく近縁である。タイムは和名をタチジャコウソウという。
 
 ごくふつうに「タイム」といっている、レッドとホワイトとの両タイムの2種の分析結果をを次に示す。
 
主要成分(%で示す)
レッドタイム(チモールケモタイプ)
ホワイトタイム、別名スウィートタイム(ゲラニオールケモタイプ)
 
          レッドタイム   ホワイトタイム(スウィートタイム)
 チモール      45〜48     0
 カルバクロール   2.5〜3.5      0.7
 ゲラニオール    0         30.4
 ゲラニルアセテート 0         50.1
 β-カリオフィレン  1.3〜7.8        4.1
 α-ピネン       0.5〜5.7      0
 p-シメン        18.5〜21.4       0
 1,8-シネオール       3.6〜15.3        0
 テルピノレン    1.8〜5.6        0
 
 以上は、いちおうの目安とお考え頂きたい。タイムには地方によってさまざまなケモタイプ、品種、変種がたくさんあり、その成分も資料によって大きな差がある。市販のタイム油の大半は、いわゆるレッドタイムとホワイトタイムである。60%をこす量のチモールを含有するレッドタイムを精留したものがホワイトタイム。
ふつうは、レッドタイム油を「タイム」油の代表格にしている。
 
・偽和の問題
 市販の「タイム」油というのは、実はオリガナム油その他の精油を増量剤として加えた商品が大部分である。ことにホワイトタイム油には、パイン油のカスみたいな留分、ローズマリー油、ユーカリ油、オリガナム油、いずれも合成したテルピネオール、p-シメン、ピネン、リモネン、カリオフィレンなどをうんと加えているのがふつうだ。牧 伸二じゃないが、書いていて「あ〜あ、やんなっちゃった」といいたくなる。
 
・毒性
 LD50値 ー レッドタイム
  ラットで4.7g/kg(経口)、ウサギで>5g/kg(経皮)
 
 刺激性・感作性 ー レッドタイム
  ヒトにおいて8%濃度に稀釈して皮膚に塗布したケースで、いずれもこれらは生じなかった。しかし、実験動物の皮膚に未稀釈でこの精油を適用したところ、激烈な刺激性を示した。
 
・作用
 レッドタイムの精油は、モルモットの回腸にin vivoで痙攣を惹起することがわかっている。
 
 抗菌・殺菌作用 レッドタイム油は広範囲にわたって、殺菌・抗菌効果がきわめて強力である。しかし、ホワイトタイム油の方は、それほど抗菌・殺菌力は強くない。レッドの半分くらいである。
 
 抗真菌作用  レッド・ホワイトの両タイム精油とも、かなり強力。
 抗酸化作用  かなり強力である。
 CNV(随伴性陰性変動)のデータを見ると、タイム油には刺激効果があることがわかる。
 
・用途
 タイム油は、洗口液、うがい薬、せき止め、のどの痛み止めによく用いられてきた。私も子供のころ(つまり敗戦直後)これを入れた「チミッシン」というカゼ薬をよく飲んだ。甘みがあっておいしかった。当時、甘味に飢えていた私は、チミッシンのほかに、母の唯一の化粧品だったグリセリンなどもなめた記憶がある。
オリーブ油その他の植物油にタイム油を入れて、引赤剤にし、刺激痛を鎮静させるのにも使ったりする。 

2014年5月14日水曜日

セージ(薬用サルビア) | 精油類を買うときには注意して!⑭

セージ(Salvia officinalis)油
 
セージはシソ科の小低木。古代からヨーロッパでその葉は香味料として(ソーセージづくりには不可欠。もっともソーセージのセージは、「塩」を意味するラテン語に由来する)、また薬として使われてきた。ローマ人は、ヘルバ・サクラherba sacra(聖なる草)とも呼んだ。salviaはsalvation(「救い」を意味する英語)と同じ語源から来ている。
英語では、これをダルメシアンセージ、トルーセージ、レッドセージ、イングリッシュセージともいう。
この原産地は英国とされる。グループサウンズのサイモン&ガーファンクルのヒットソング「スカボローフェア」の「パスリ、セージ、ローズマリー、アンド、タイム」というリフレインの歌詞は有名だ。
 
これと近縁の別種の“セージ”として、スパニッシュセージ(Salvia lavandulaefolia)があり、これもアロマテラピーで使用されることがときどきある。原産地はスペインである。
 
いずれも生乾き状態の葉を水蒸気蒸留して精油をとる。
 
 
主要成分(%で示す)
          ダルメシアン種   スパニッシュ種
 1,8-シネオール    8〜24     18〜54
 α-ツヨン        15〜48      0
 β-ツヨン        2〜25      0
 カンファー       2〜27     1〜36
 リナロール       0〜32      0〜9
 α-ピネン         痕跡量      4〜20
 β-ピネン         痕跡量      6〜19
 カンフェン        痕跡量        4〜30
 p-シメン         痕跡量      1〜5
 
ごらんのように、これら2種のセージはそれぞれ成分に差があるだけでなく、クラリセージ油ともちがった組成をしている。

・偽和の問題
 ダルメシアンセージ油は、これとは別種のグリークセージ(Salvia triloba)の精油で偽和されることがよくある。グリークセージは、1,8-シネオール含量が42〜64%にも達する。また、ヴァージニアン シダーウッド油または前述のグリークセージ油から分離したツヨンを添加することも多い。パルマローザ(Cymbopogon martinii)油を加えることも往々ある。人間の悪知恵にはキリがありません。
 
・毒性
 LD50値
 ダルメシアンセージ油  ラットで2.6g/kg(経口)、ウサギで>5g/kg(経皮)
 スパニッシュセージ油  ラットで>5g/kg(経口)、ウサギで>5g/kg(経皮)
 
 グリークセージについてはまだ報告例がない。
 刺激性・感作性
  ヒトにおいて8%濃度で、これらは認められなかった。
 光毒性
  スパニッシュセージ油は、光毒性はない。ダルメシアンセージ油については、いまだに試験例がない。
 その他
  ツヨンは、ふつう有毒とみなされている。しかし、α-ツヨン、β-ツヨンとも、英米では食品用香料として、ごく少量ならば、その使用が許されている。
  含有ツヨン分のせいで中毒患者を多くだしたフランスのアブサン酒のほうは、1915年に製造が禁止されている。しかし、そのもとになったヒソップ(Hyssopus officinalis)は、この生育地によってツヨン分をほとんど、あるいはまったく含まないケモタイプがある。フランスの有名なリキュールの「シャルトルーズ」は、そうしたヒソップを使っているので、これまで、何もトラブルをおこした例はない。
  セージはツヨンを多く含むので、多量に摂取すると中枢神経系に毒性を示し、麻痺を惹起する。特に女性はツヨンに弱いらしく、セージ油を用いたマッサージをうけたり、沐浴用に多くて10滴湯に落として用いたりしただけで腹痛に襲われたり(子宮の異常収縮に起因するものだ)、ひどい月経過多になったりしたケースが報告されている。多くのセラピストは、このためにこれに代えてクラリセージ油を利用している。ダルメシアンセージ油は幼児に使ってはダメ。癲癇(てんかん)の素質のある人間に使用するのも、妊娠中の女性に用いるのも、いずれも禁忌。
  また、食品添加物として許されるのは、体重1kgあたり10mgから35mgの範囲である。添加量を10mg/kg以下にしなければならないのは、アルコール飲料だ。
ダルメシアンセージよりもはるかに安全な、近縁のクラリセージ油を用いてマッサージをうけたあとでも、アルコール飲料を摂取すると、ひどく悪酔いする。クラリセージ油を用いたマッサージを受けた後、車を運転するのもいけないといっている人もいる。
 
・作用
 ダルメシアン・スパニッシュの両セージは、体内からとりだしたモルモットの回腸で痙攣惹起作用を示した。
 抗菌作用   細菌の種類にもよるが、総じてあまり強いとはいえない。
 抗真菌作用  真菌の種類によって、さまざまである。
 駆風作用   両種のセージとも、この働きを示した。
 酸化防止作用 ダルメシアンセージに、これが認められる。
 痙攣惹起作用 ラットでもヒトでも、多量に使うと痙攣をひきおこす。内用はもとより、外用でもそうである。 

2014年5月7日水曜日

ジュニパー | 精油類を買うときには注意して!⑬

ジュニパー(Juniperus communis)油
 
 
ヒノキ科の低木で、成熟(2〜3年で実をつけるまでに成熟)すると、甘い液果を実らせるジュニパー。乾燥させて細かく砕いたこの液果を、水蒸気蒸留してこの精油を抽出する。液果を発酵させて抽出した成分は、ジン・ブランデーに添加される。本来は、これらは熱病になどに用いる薬用酒であった。
和名は、セイヨウネズ。木部からも精油を抽出するが、これはたいていより高価な液果油の増量のために利用される。
 
原産地
 ハンガリーをはじめとするヨーロッパ諸国
 
 
主要成分(%で示す)
 α-ピネン       33〜71
 サビネン       0.3〜27
 ミルセン         5〜18
 リモネン       2〜9
 γ-テルピネン       0.3〜3.7
 テルピネン-4-オール  4〜10
 
 
・偽和の問題
 ジュニパー油(厳密にはジュニパー液果油)の真正品は、めったに売っていない。たいていは、合成したピネン、カンフェン、ミルセン、それにターペンタイン油の留分などが加えられたしろものだ。上述したジュニパー木部油、またジュニパーの小枝から水蒸気蒸留抽出した精油も、この偽和(増量)の目的で用いる。あなたのお手持ちのジュニパー油は、失礼ながらまずまちがいなくこの手の品である。
 
 
・毒性
 LD50値
 ラットで8g/kg(経口)、ウサギで>5g/kg(経皮)
 
 刺激性・感作性  ヒトにおいて8%濃度で、これらは認められなかった。100%濃度で、20人を対象にして行ったテスト(24時間にわたって実施)でも、刺激性が発現したものは、そのうちの2名にとどまった。
 光毒性  認められない。
 
 
・作用
 薬理学的作用  ジュニパー液果油の場合、若干の痙攣惹起効果がみられた。
 抗菌作用    報告されていない。これに殺菌作用があるなどという人間のコトバを信じてはいけない。
 抗真菌作用   真菌の種類を問わず、あまり強くない。
 利尿作用    腎臓の所に適度に稀釈して塗布するとよいが、腎臓に疾患のある人間には禁忌。
 そのほか特筆すべき作用・効果は、報告されていない。
 
 ジュニパー油は駆風作用があり、鼓腸・疝痛の際に用いると効果的。痔疾にも、この精油をぬるま油に数滴落として肛門と患部周辺を洗うと良い。浸出性湿疹にも有効である。
 
 また、これはハーブ療法に属することだが、ハーブティー用に市販されているジュニパーの乾燥果を乳鉢などで5〜6粒、すりつぶして、水で飲みこむと、血糖値がドラスティックに下がったケースが日本であった。1日に3〜4回このジュニパー液果粉末を服用するとよい。その患者のかかりつけの医師が驚いたそうである。 

2014年4月23日水曜日

ジャスミン | アブソリュートを買うときには注意して!⑫

ジャスミン(Jasminum officinale var. grandiflorum、原種は J. officinale)アブソリュート
 
このモクセイ科の常緑小低木ジャスミンは、オオバナソケイ(素馨)といわれ、ソケイ属の植物である(カタロニアジャスミン、イタリアジャスミンとも呼ばれる)。ジャスミンの原種であるJ. officinale(ポエッツジャスミン〔poet’s jasmine〕、コモンホワイトジャスミン〔common white jasmine〕と俗称される)は厳密にはこれとは別物であるが、香りにほとんど違いがなく前者とだいたい同一視され、香料用にされる。
前者(J. officinale var. grandiflorum)のほうは、花の直径が最大3.5cmにもなる。原種のJ. officinaleは花の直径が最大2.5cmのため、効率よく芳香成分をとるために前者のほうがひろく栽培される
中国産のジャスミンは素馨(そけい)で、茉莉(マーリー)は、その一部に属する。その学名は、J. sambac。茉莉花(マーリーホワ)は中国人に愛される花の一つで、このつぼみを茶に入れた茉莉花茶は美味である。日本で市販されているペットボトル入りのジャスミン茶は合成香料しか入っていないニセモノだ。
 
茉莉は、学問的にはアラビアジャスミンという。中国民謡『茉莉花』は古来愛唱されてきた。アグネス・チャンのこの歌は、一度聴く値打ちがある(関係ないか)。
 
花の香りの女王をバラとすれば、ジャスミンはさしずめ花香の王だろう。ジャスミンの原産地は、アフリカ・アジアの亜熱帯・熱帯地方で、その種類は300種を数える。
白や黄などの小さい花を咲かせるものがあり、そのうちひときわ強い芳香を放つ種類がある。そこで、これが香水とか茶の付香などに利用される。
 
ジャスミンの花にはいくつもの香気成分が含まれる。とくにジャスミンの特徴的な香りのもととなるcis-ジャスモンはいまだに工業的に生産する方法が確立されていないので、これを使った香料はきわめて高価である。
これがジャスミンのアブソリュートがアロマテラピーではほとんど使われていない理由の一つである。
しかし、これには後述するもっと重大なわけがある。
 
このジャスミンの産地の一つ、エジプトでは午前3時ごろから10歳未満の少年たちが袋を背負って、午前9時ごろまでの間に花を一つ一つ手摘みして袋に入れる。腕のいい子は、その時間で7万個の花を摘む。そして、その賃金は極めて低い。モロッコ、インドなどでも同様である。花はバラなどと違って、ごく小さい。私はこの花を見ると日本のテイカカズラを連想する。
 
花700kgから、ようやく1kgのアブソリュートが抽出される。花の数にすると数百万個になるだろう。高価なわけだ。明け方に黙々と摘花する少年たちを思うと、私は何か悲しみ・怒りをおしとどめることができない。もちろん、香りのもつ文化史的な意味は十分わかっているつもりではある私だが。
そうして集めた花は、アセトン、ヘキサン、四塩化炭素、石油エーテル、ベンゼンといった、発ガン性有機溶剤で処理してコンクリートというもの(花のワックスと芳香成分の混合体)の形態にして、これをエチルアルコールで摂氏78度ほどで蒸留すると、アブソリュートが得られる。
このアブソリュートを使った有名な高級香水が、ジャン・パトゥー社の”JOY”である。
 
茉莉花は、華南・台湾・インドネシアなどで栽培され、早朝つぼみの状態のときに採取され、烏龍茶に着香するために利用される。
 
むかしは、ジャスミンの花を獣脂と植物油とに混ぜたものに根気よく何度も貼り付けて、その芳香成分を移して、それをエタノールで蒸留していたので問題はなかったが、現在では、これは手間と人件費がかかりすぎるので、このメソッドを採用している会社はいまは世界にたった1社しかないと聞く。この方法をアンフルラージュと呼ぶ。これは冷浸法と訳される。
 
したがって、有機溶剤抽出法が主流になった現在、アブソリュートは、バラなどとともにジャスミンもあまりアロマテラピーでは用いられない。最終製品に発ガン性物質が残留するからだ。マギー・ティスランドなどは紅茶にジャスミンアブソリュートを入れて飲むことを賞揚しているが、そうした危険性をどの程度認識しているのか、不安である(香水のように、ほんの少し、それもタマにしか体表につけないものなら問題にはならないが)。
ジャン・バルネ博士は、冗談半分だろうが、ジャスミンを内用すると、糞便がジャスミン香を発するようになると書いている。
 
 
主要成分(%で示す)
 ベンジルベンゾエート 11.5
 ベンジルアセテート  25.8
 リナロール      4.6
 インドール      3.7
 オイゲノール      2.6
 cis-ジャスモン      2.4
 ファルネセン     2.0
 ファイトール類    27.9
 
・偽和の問題
 真正のジャスミンアブソリュートは、なんといっても高いので、多くの成分が偽造される。偽和はインドール(糞便臭のもとの成分。自分のウンチから採ればよさそうだが、やっぱり合成する)、合成シンナミックアルデヒド、イランイランのカスみたいな留分などを用いて偽和する。合成ジャスミンは、しつこい、いやらしい甘さがして、文字どおり安っぽい香りがあり、すぐにわかる。わからない人は香水を熟知している人に尋ねて、そんな成分で作った香水をつけるのは控えて欲しい。他人の迷惑になるから。
 
・毒性
 LD50値
 ラットで>5g/kg(経口)、ウサギで>5g/kg(経皮)
 光毒性は報告例はない。
 
・効果
 薬理学的作用 生体から摘出したモルモットの回腸において、痙攣惹起作用を示した。
 殺菌作用 報告されていない。
 抗真菌作用 報告されていない。
 その他の作用 CNV(随伴性陰性変動)によって、刺激作用があることがわかっている。
 
なお、パトリシア・デービスによれば、ジャスミンアブソリュートには子宮強壮作用があり、月経痛を鎮める力がある。また、出産時にこれを腹部にマッサージすることで、苦痛を軽減でき、収縮を強め、出産を助け、胎盤の排出を促すとともに、産後の回復を助けるという。またこれらには抗うつ作用があるために「マタニティー・ブルー」を好転させるのにも有効だそうだ。
ジャスミンはまた、ことに男性に催淫作用を示す。これはジャスミンに不安や恐れ、うつといった性欲を抑制するファクターを軽減ないし解消する力があるためである。
 
・思い出
 ① どうでもよいことだが、東京・飯田橋にインドカレーでけっこう有名な店があった(いまはどうか知らないが)。その店名は「インドール」といった。私は好奇心が旺盛なので、一度寄ろうと思いながら果たせずにいる。実は、このインドールというのはインド中部の都市名Indoreからとったもので、ジャスミンの成分indoleとは無関係である。
 
 ② また日本アロマ○○協会の講演で、ある学者とおぼしき男が、ジャスミンをわざわざ水蒸気蒸留した結果を大まじめで報告した。私は思わず、何でそんなことをするのか尋ねた。すると、隣席のこれまたウスラバカづらの学者らしき男が「実験的にトクベツに行ったんですよ!」と私を叱った。なるほど、先人の行ったことでアタリマエとされているものでも、何度でも疑問をもって再現実験・追試すること自体は決して悪くはない。科学的精神のあらわれである。
 
しかし、16世紀以降、無数の人びとがジャスミンの花を水蒸気蒸留すれば多数の芳香形成成分が破壊され分解されて、香りがひどく劣化してしまうことを認めたからこそアンフルラージュとか有機溶剤抽出法とかを採用しているのだし、また当然20世紀生まれのアロマテラピーのための精油としても効力が大幅に落ちるであろうことは誰しもわかることだ。経験則というべきか。
こういう先生方は、ニュートンの万有引力の法則もついでに再試験してみられるとよい。
東京タワーか、最近できたスカイツリーなどの高いところから空中に飛び出してみて、地球に引力があるかどうか、我が身をもってシッカリ追試なさることを心からお勧めする。科学者の鑑と讃える奇特な人もいるかもしれない。
故・藤田忠男博士にこのことをお話ししたら、呵々大笑なさるはずだ。
そして、「だから、あの協会はダメだと見切りをつけて、会員たちが私のところに話を聞きに来るんですよ」とおっしゃることだろう。
 
付け加えておくが、この講演でジャスミン「精油」のほうが、アブソリュートよりも薬理学的に効果が高かったなどという発表など何一つなされなかった。「あたりまえすぎることをいうな」と識者からドヤされそうだ。世の中にはとかく学者を名乗るバカ者が多すぎる。高校の入試問題をこんなやつらに課してみれば、月給泥棒の化けの皮がハガレるだろう。そういうことをしない文科省は、そんな連中と共犯関係にある、なれ合い関係を持っているとみられてもしかたあるまい。 

2014年4月17日木曜日

シナモン | 精油類を買うときには注意して!⑪

シナモン(Cinnamomum zeylanicum、またはC. verum、Laurus cinnamomum)油
 
このクスノキ科の木本の樹皮または葉を蒸留して抽出した精油。
産地は、スリランカ、インド、インドネシアなど。
 
主要成分(%で示す)
           シナモン皮    シナモン葉
 α-ピネン       0.2〜0.6     0.2〜1.0
 β-シメン       0.6〜1.2     0.9〜1.2
 シンナムアルデヒド    74〜75    1.3〜2.0
 オイゲノール      0.8        70〜96
 シンナミルアセテート 5.0         0.8〜1.7
 カリオフィレン    1.4〜3.3     1.9〜5.8
 ベンジルベンゾエート 0.7〜1.0      2.7〜3.5
 
 シナモン皮油と葉油とでは、とくにシンナムアルデヒド、オイゲノールとの両含有成分において大差があるため、一方の代りに他方を用いることはできない。皮油は主成分としてシンナムアルデヒドを含むが、葉油のほうはオイゲノールを主要な成分とするために、クローブ花芽油に類似しているといえる。
 
・偽和の問題
 シナモン皮油は、シナモン葉油、カネラ皮油、クローブ葉油、合成オイゲノール、合成シンナムアルデヒドなどを加えてカットする(伸ばす、すなわち増量する)ことがよく行われている(カネラは西インド諸島産のシナモンに似たクスノキ科の木。その樹皮は白桂皮と称され、香味料・薬剤として利用される)。
カシア油(Cinnamomum cassia)(中国シナモン油ともいう)を、シナモン皮油と偽って売る業者も多い。シナモン葉油は、クローブ葉油、ベイリーフ油、合成オイゲノールを混合してつくったニセモノを販売する人間も少なからずいるので、くれぐれも要注意。ひどいのになると、燃料用油、ケロシン、石油などを増量剤としてたっぷり加えて「ホンモノでござい」といって売りつける悪人も少なくない。
 
・毒性
 LD50値
 シナモン葉油 ラットで2.7g/kg(経口)、ウサギで5g/kg(経皮)
 シナモン皮油 ラットで3.4g/kg(経口)、ウサギで0.7g/kg(経皮)
 
 刺激性は、ヒトで10%濃度で反応はゼロ。
 
 シナモン葉油をヒトで10%濃度で試験した際には、刺激性はみられなかった。しかし、皮油では被験者の80%に感作が見られた。
 光毒性は観察されていない。
 
・作用(もちろんホンモノでなければ、下記の効果は期待できない)
 シナモン葉油には、かるい痙攣惹起作用がある。
 抗菌作用は皮油・葉油とも強力。
 抗真菌作用も、皮油・葉油とも強力。
 葉油は酸化防止作用が著明。
 
 シナモン皮油および葉油は長らく歯科治療で使われてきた。また、練り歯磨きにこれを加えると殺菌作用を発揮する。また皮油・葉油とも内用して、その駆風作用と下痢治療作用とが活用されてきた(アルコール飲料に10%濃度で加えて内用したり、沸騰させた湯に同程度の濃度で入れて飲用する)。 
葉油は痛風・リウマチの痛みを緩和するのに外用して有効。

2014年4月10日木曜日

シトロネラ | 精油類を買うときには注意して!⑩

シトロネラ(Cymbopogon nardus 別の学名として Andropogon nardus)油
 
乾燥させたイネ科の植物、シトロネラの全草を水蒸気蒸留して抽出した精油。
このハーブは乾燥させないと、蒸留時にひどく燃料を要してしまうばかりでなく、抽出した精油の香りも悪い。そのため、干して余分な成分を蒸散させる。
産地はスリランカ、ジャワ、台湾、インドネシア、インド、中国
 
・主要成分(%で示す)
 ゲラニオール    11〜26
 シトロネロール   4〜24
 シトロネラール   5〜48
 リモネン      3〜9
 カンフェン     0〜8
 セスキテルペン類  産地により変動がある
 
・偽和の問題
 シトロネラ油は安価なので、これのニセモノを作ることは、まずないといってよい。ただ、シトロネラ油自体、ゼラニウム油とバラ油との増量剤として利用されることが往々ある。メリッサ油のニセモノを作る場合、その成分の一部として配合することが極めて多い。
 
・毒性
 LD50値は、
 ラットで>5g/kg(経口)、ウサギで3.4〜6.7g/kg(経皮)
 刺激性・感作性は、ヒトで8%濃度で、いずれも認められなかった。
 しかし、皮膚炎患者の一部には、この精油を未稀釈で皮膚につけた場合、感作反応を生じたケースもあった。
 光毒性はまだ試験例はない。
 シトロネラ油に接触したとき、過敏に反応して湿疹を生じた例もある。
 また、ニキビ様毛包炎が両手、各指、前腕部にこの未稀釈精油に触れて発生した例も報告されている。
 
・効果
 in vivoでモルモットの回腸において痙攣惹起効果を示すことが判明した。
 抗菌作用はかなり強力。
 抗真菌作用も、かなり強力。
 昆虫忌避作用があり、これを単独で使用したり、ゼラニウム油やパルマローザ油などと組み合わせて用いたりして虫を追い払うのに利用される。 

2014年4月3日木曜日

シダーウッド | 精油類を買うときには注意して!⑨

シダーウッド(Cedrus atlantica)油
 
これは、マツ科植物。ほかにテキサスシダーウッド(Juniperus mexicana、ヒノキ科)、ヴァージニアンシダーウッド(Juniperus virginiana、ヒノキ科)があり、これらからも精油を抽出する。
ふつうは、Cedurus atlantica(アトラスシダーウッド)の木部を細かく砕いたものを蒸留抽出した精油のことをさす(葉から抽出する場合もある)。
 
・主要成分(%で示す)
         アトラス    ヴァージニア    テキサス
 セドロール    16.5       24.0       26.8
 α-セドレン      6.5         3.1         4.5
 β-セドレン    24.6       21.3       31.5
 ツヨプセン    29.2       10.2       17.8
 
・偽和の問題
 各種のシダーウッド油は、まぜあわせて商品化されている。したがって、商品によって成分上、大きな差がある。
 純粋に1種類のシダーウッド油だけで売られることはまずない。
 そこで、シダーウッド油については、いわゆる偽和のことは、ふつう問題にされない。なお、ヴァージニアンシダーウッド油だけは、欧米で食品添加物にも用いる。
 
・毒性
 アトラス、ヴァージニア、テキサスの各種とも、LD50値は、
 ラットで>5g/kg(経口)、ウサギで>5g/kg(経皮)
 刺激性・感作性は、ヒトで8%濃度で、いずれも認められなかった。
 光毒性は報告されていない。
 
・効果
 テキサス、アトラス、ヴァージニアの各種とも、モルモットの回腸で弱い鎮痙作用を示した。
 殺菌作用抗真菌作用とも、どの種のシダーウッドもほとんど認められない。
 抗酸化作用も、どの種のシダーウッドにもないといってよい。
 
 いろいろな本で、この精油は各種の疾患にきわめて有効なようにいわれているが、実際には上記のようにあまり役に立たない精油と心得られたい。 

2014年3月27日木曜日

サンダルウッド | 精油類を買うときには注意して!⑧

サンダルウッド(Santalum album)油
 
サンダルウッド油の名産地は、なんといってもインドのマイソールだが、長年の乱伐のせいで絶滅が危惧され、現在、まともな商業的なルートあるいは手段では、同産地のサンダルウッドは手に入れることができない。インド政府が原木をすべて管理している。そこで、いま売られているものは、万一本物だったら盗伐した原木から採油したサンダルウッドと思ってまずまちがいない。渇しても盗泉の水は飲まないようにしてほしい。ウェストインディアンサンダルウッド油などという詐欺的な名称〔これでは西部インド産のサンダルウッドと詐称しているのも同然だ〕で販売されているものはアミリス油(Amyris balsamifera)に、そのほか各種のサンダルウッドとはカンケイない精油をまぜこみ、ごていねいに下剤に使われるヒマシ油まで加えたしろもので、つくづく人間の倫理的退廃を痛感させられる商品だ。アミリス油などは、それなりにちゃんとした効果を示す精油なのに、なぜその効用を堂々とうたって売ろうとしないのか。
オーストラリアンサンダルウッド油(Fusanus spicatus, 別名 Eucarya spicata)油というニセものもでまわっていたが、これまでも乱伐のせいで入手できなくなってしまった。こうした事情は前にお話ししたとおりである。
 
「サンダルウッドについて」2013年7月22日
 
現在「サンダルウッド油」として市販されているものは、上述したようにアミリス油にアラウカリア油、シダーウッド油、コパイパ油などを混合し、さらに液体パラフィン、グリセリルアセテート、ジエチルフタレート、ベンジルベンゾエート、ベンジルアルコール、ジプロピルアルコールのような無香無臭の有機溶剤を加えたしろもの。私は怒りを通りこして、ただもう暗澹(あんたん)とするばかりだ。これが、人体に有害なことはいうまでもない。こんなニセものを対象にして研究など行ってもぜんぜん無意味である。本物のサンダルウッド油の構成成分は、以前、載せたので、ここでは省く。まあ、「サンダルウッド油」は買わないことですね。インドネシア産だって、中国・雲南産だってさして効果など期待できまい。
 
・毒性 LD50値(もちろん本ものの場合)
 >5g/kg(経口)、これはラットで実験した例
 >5g/kg(経皮)、これはウサギで実験した例
 刺激性・感作性は、ヒトで10%濃度で皮膚に適用しても、まったく認められなかった。光毒性はゼロと考えてよい。
 
 
・効果
 鎮痙作用。モルモットの回腸での実験による。
 殺菌作用。この精油を蒸散させても有効。
 鎮静作用がこれにあることは、CNVの波形でわかる。 
 
 1910年、ドイツのP. エールリッヒと日本人、秦 佐八郎(はた・さはちろう)とが合成したアルセノベンゼンの誘導体で、合成試験番号にちなんで六〇六号とも呼ばれた有名な梅毒治療剤サルバルサンには、サンダルウッド油を含有させてある。インドでは古くから、サンダルウッドを梅毒・淋病などの性尿路系の疾患の治癒の目的で用いてきたことは知る人ぞ知るところだ。 

2014年3月6日木曜日

クローブ | 精油類を買うときには注意して!⑦

クローブ(Eugenia caryophyllata)油
 
クローブは、フトモモ科の木本で、これの3つの部分から精油を蒸留抽出する。すなわち、以下の各部分である。その部位によって、とれる精油の成分も効用も異なる。したがって購入時によく注意されたい。
 
① クローブ花芽油
② クローブ葉油
③ クローブ茎油
 
クローブの原産地
 マダガスカル、ザンジバル(タンザニアの沖合30キロにある島。世界一のクローブの産地。ココナッツ、カカオ、米もとれる)、コモロ(クローブ、バニラ、カカオ、コーヒー、サイザル麻などの産地)
 
クローブ油の採油部位による成分の差異(%で示す)
          クローブ花油   クローブ葉油   クローブ茎油
カリオフィレン    2〜12     15〜19    2.5〜3.5
オイゲノール     36〜95    77〜90    87〜95
アセトオイゲノール  11〜22    痕跡量      痕跡量
フムレン       0.5〜1.6     1.5〜2.5     0.3〜0.4
オイゲニルアセテート 6〜12     0.5〜10     2〜3
 
クローブ油の偽和・詐称について
 各種のクローブ油のうち、いちばん高価なのは、「クローブ花芽油」なので、花芽油と称して、ニセモノと知りながら葉油・茎油を売る人間がときどきいる。注意すること。
これに含まれるオイゲノールもカリオフィレンも「合成」したものがあるが、皮肉にもこうした「合成精油」は天然のものよりも値段が高くなってしまうケースがある。
 
効果
 クローブ花芽油とクローブ葉油とのどちらもかるい鎮痙作用がある。これはin vivoで、モルモットの回腸でテストされている。また、ラット、モルモット、ウサギの各器官において、またクローブ(茎・花芽)両油は、マウスの摘出した小腸に対して抗ヒスタミン作用、抗筋肉痙攣作用、パパベリン(パパベリンはアヘンに含まれる有毒アルカロイド。医療用)様鎮痙活性を示すことがわかっている。
 
抗菌作用は非常に強力(どの部分由来であるかを問わず、クローブ油は抗菌力が強い)。
クローブ油の抗菌力は、石炭酸の8.5倍も強力なことがわかっている。
 
抗真菌力は、対象となる真菌にもよるが、総じてやはり強力である。
クローブ花芽油・葉油には、いずれも強力な酸化防止作用がある。
 
クローブ花芽油・葉油は歯科治療において歯痛・削歯に際しての局部麻酔用にされる。
またクローブ葉・花芽油は、消化器の炎症を鎮め、駆風効果を示す。 

2014年2月20日木曜日

クラリセージ|精油類を買うときには注意して!⑥

クラリセージ(Salvia sclarea)油
 
 モロッコ、ロシアなどを原産地とするシソ科のこの小低木の、花の咲いた先端部分と葉との双方を、蒸留して抽出する精油。
 
 セージの類は、ほかにもいろいろあるが(観賞用のサルビア〔ヒゴロモソウなど〕もこの仲間だ)、このクラリセージは含有成分そのほかで、多種のサルビア属植物と、精油成分などに大きな差がある点に注意すること。これに近縁のセージ(Salvia officinalis)油は、よほど扱いに慣れないと危険なので、安全なクラリセージ油を用いる人が多い。
 
 ・主要成分(%で示す)
  リナリルアセテート    63〜74%
  リナロール        8〜28%
  カリオフィレン      1〜2%
  スクラレオール        0.8〜2%
  ゲルマクレンD      0.4〜4%
 
 クラリセージ油には、このほかにも微小成分が、いまわかっているだけでも250種以上含まれている。それらが相乗的に働いて、その特異な薬効を示すとともに、最初はなじめなくても、いちど好きになるとヤミツキになるような独特の香りを形成する。
 その微小成分のうち、主要なものとしては、ジヒドロラクトン、各種のエステル、γ-ラクトン、スパツレノール、イソスパツレノールなどがあげられる。
 
 ・この精油の偽和の問題
  クラリセージ油と称して売られている精油にも、偽和したものが多々ある。合成リナリルアセテートと合成したリナロールを添加したり、ラバンジン油をこっそり加えたり、俗にベルガモットミント(Mentha citrata)といわれるハーブから蒸留抽出した精油をこれでもかといわんばかりに入れた製品がひろく市販されている。こんなものに「薬効」は期待できない。十分に用心し、ダマされないで頂きたい。
 
 
 ・毒性
  ラットだとLD50値は5g/kg(経口)、ウサギの場合、>2g/kg(経皮)
  刺激性/感作性は、ヒトの皮膚に濃度8%で適用したが、これらはいずれも認められなかった。
  光毒性はない。
  なお、このクラリセージ油を外用・内用した後はアルコール飲料の摂取は禁物(ひどく悪酔いする)。
 
 ・効果
  ー 鎮痙作用
  ー かなり強力な抗菌作用、相当に強力な殺菌作用があり、そのスペクトラム(つまり有効性を示す範囲)はひろい。
  ー 抗真菌作用
  その他にも気分を明るく高める働きがあるとされる。マギー・ティスランドはこれに緊張を取り除き、官能性・肉欲性をおもてに出させる力があると言っている(マギーさん、女性として実体験があるのだろう)。
酸化防止作用は認められない。
 
 その他
  これには、C20のいわゆるセスキテルペノールのスクラレオールが含まれており、これのエストロゲン(女性ホルモンの1種)様作用がうんぬんされることが多いが、そのことをハッキリ医化学的・薬学的に厳密に立証したデータはない。大げさに騒ぐことはないといっておこう。 

2014年2月1日土曜日

ホワイトカンファー、ブラウンカンファー、イエローカンファー、ブルーカンファー(樟脳)|精油類を買うときには注意して!⑤

カンファー(Cinnamomum camphora)油

いまでこそ「カンファー(クスノキ)」という、あまり利用されなくなったこのクスノキ科の木の精油だが、江戸時代は、これが陶磁器や漆器(しっき)などとともに、オランダ語で「ヤーパン・カンフル(日本樟脳)」と称されて、対オランダ貿易品の花形の一つであった。これは薬品とされ、とくに心臓を強壮にする働きで有名。心臓病などで倒れた人を起死回生させる薬として、急いで「カンフル」注射を打ったなんていう表現はお聞きになったことがあるでしょう。
 
オランダに輸出されたといっても、この精油そのものを船積みしたわけではない。輸出されたのはC10H16Oという式で表わされるこの精油を冷却すると析出してくる無色透明の光沢のある結晶体すなわち樟脳で、ツーンとする特異な芳香を発する。
 
これは水には不溶、アルコール、エーテルなどに溶ける。
無煙火薬、後世のセルロイド(ニトロセルロースとカンファーとをアルコールを加えて加熱成型したプラスチックの一種)の原料になり、防虫剤、防臭剤、医薬としてもひろく活用された。
 
むかしは今日のように石油由来のプラスチック製品などなかったので、鉛筆箱、定規などの文房具によくセルロイドが用いられた。幼い私はこわれたセルロイドの玩具などを削って、アルミ製の鉛筆キャップにつめ、末端を潰し、それをストーブの上などに置いたり、ロウソクの炎で加熱したりした。すると、そのキャップは後部から白い煙を勢いよく出して、空中を飛翔(ひしょう)したものだった。糸川博士らの「ペンシルロケット(1955年)」より7〜8年も前の話ですよ。
 
失礼、うっかり私自身のむかしの話になってしまった。
カンファー(クスノキ)の原産地は中国。いまでは中国のほか、日本、台湾などにもこの木が(日本では関東以南)生えていて、カンファー油の生産も規模も小さくなったが、今も続けられている。
 
原油は結晶カンファーを含んでいる。これをフィルタープレッシングというプロセスで除去する。ついで、これをヴァキュームレクティファイイング(真空精留)すると、最高品質の①ホワイトカンファー油に加えて、以下②、③、④の各留分が得られる。
 
①ホワイトカンファー油
 無色から淡黄色。分留工程で沸点は低く、比重は小(つまり軽い)。
 フレッシュでシャープなしみとおるような香り。アロマテラピーではもっぱらこれが使用される。これには、有毒なサフロールは含まれていない。
②ブラウンカンファー油
 これは少なくとも80%のサフロールを含む。サフロールはきわめて毒性が強い成分だ。発ガン性、神経毒性を有する。ウサギにおいて、サフロールの最小致死量は10g/kg(経口)。マウスに胃管注入したケースでは肝臓に発ガンがみられた。米国では1961年に、サフロールを食品に添加することを禁じている。
これはサッサフラス油と同様の特徴的な香りが特色である。
③イエローカンファー油
 これは前記のブラウンカンファー油からサフロール分を抜いたものだが、サッサフラス臭が強い。これも場合によりアロマテラピーで用いられることがあるが、あまり感心できない。およしなさい。
④ブルーカンファー油
 これは、比重のもっとも大きな精油で、各種セスキテルペンを含む。これもアロマテラピーではめったに用いない。
 
 
 ・主要成分(%で示す) <これはホワイトカンファーの場合>
  1,8-シネオール     30.2%
  α-ピネン        6.8%
  カンファー       50.8%
  テルピネオール     2.1%
  セスキテルペン類    各種(原料植物の産地により変動がある)
 
 ・この精油の偽和の問題
  この精油は価格も安いため、あまり偽和されることはないと考えてよい。ただ、この精油の成分は、100%天然とはいっても、原木の産地によって大きな差があることに留意していただきたい。
 
 ・毒性
  LD50値(半数致死量)
   ホワイトカンファー ラットにおいて、>5ml/kg(経口)、ウサギにおいて、>5ml/kg(経皮)
   イエローカンファー ラットにおいて、4g/kg(経口)、ウサギにおいて、>5g/kg(経皮) 
   ブラウンカンファー ラットにおいて、2.5ml/kg(経口)、ウサギにおいて、>4ml/kg(経皮) 
 
  刺激性/感作性は、ホワイトの場合、ヒトでは濃度20%、イエローでは濃度4%で、ブラウンだと濃度4%でそれぞれ認められない。
  光毒性は、いっさいない。

 

 ・効果
  ー 鎮痙作用(強力) 小腸の蠕動運動の活性化作用。モルモットの回腸におけるin vivoでの観察結果より。また、イヌの小腸でもその蠕動運動を強力にし、その律動性を向上させた。
  ー 抗菌作用 ホワイトカンファーはさまざまな種類の細菌にたいして強力な殺菌力を示す。
  ー 抗真菌作用 ホワイトは、多くの真菌に有効。
  ー その他の作用 キャリヤーで稀釈して、鼻腔に塗布して鼻づまりに用いたり、筋肉組織にすりこんで血流をよくして老廃物の除去を促したりすることはひろく行われている。
 
30年ほど前に、ジャン・バルネ博士の著書を読んだとき、博士が日本樟脳油の毒性・危険性を強く訴えていたことを思いだす。
博士の見解には異議もあるが、たしかに小児や妊婦などは、ホワイトカンファーといっても、これを多用しないほうがよさそうである。

2014年1月14日火曜日

カユプテ(カヤプテ、カジュプト)| 精油類を買うときには注意して!④


カユプテ(カヤプテ、カジュプトなどとも呼ばれる) 
 
このフトモモ科の常緑高木には種類がいくつかあり、それぞれ学名が異なる。
Melaleuca leucadendraM. cajuputiiM. linariifoliaなど。この木の小枝・新鮮な葉を蒸留したものが、カユプテ油である。
 
 原産地はインド、ベトナム、インドネシア付近と考えられている。
 
 ・主要成分(%で示す)
  1,8-シネオール     14〜69%
  α-ピネン        8.0%
  β-ピネン        1.1%
  リモネン        痕跡量
  リナロール       3.5%
 
 ・この精油の偽和の問題
 「カユプテ油」というラベルが貼ってある精油びんを見ても、すぐ信じてはいけない(何事も無批判に信じるものは救われない)。
 カユプテ油だと称して、もっとずっと安価に手に入るユーカリ(Eucalyptus globulus)油を売るものも多くおり、またユーカリ油をベースにして、ここに少量の合成したテルピニルアセテート、テルピニルプロピオネート、各種テルピネオールエステルを混入させたニセものを販売する輩(やから)もいる。よくよく注意して頂きたい。
 同じフトモモ科の木の葉からとるニアウリ(Melaleuca quinquenervia)油は、このカユプテ油ときわめてよく似た成分構成をもつが、値段はほぼ同じである(しかし、ニアウリ油には、シネオールケモタイプとネロリドールケモタイプとがあり、両者には成分の差、したがってその特性の差があることをお忘れなく)。
 
 ・毒性
  ラットだとLD50値は4g/kg(経口)、ウサギの場合、>5g/kg(経皮)
  刺激性/感作性は、ヒトの皮膚に濃度4%で適用したが、これらはいずれも認められなかった。
  光毒性は、いっさいない。
 
 ・効果
  ー 弱い鎮痙作用 モルモットの回腸で、弱い鎮痙作用を示した。
  ー 抗菌作用 ひろいスペクトラムの抗菌作用がある。直接皮膚につければもちろんのこと、これを室内などに蒸散させても、空気中の細菌を殺す、かなり強力な力を示す。
  ー 抗真菌作用 真菌の種類にもよるが、多かれ少なかれ真菌の増殖を抑制したり、殺したりする作用がある。
  ー 抗酸化作用 ないといってよい。
 
カユプテ油は、内用すると(0.05ml〜0.2ml)駆風作用を発揮する。つまり腸内にたまったガスを屁として出してくれる。また、この精油を外用すると、穏和な発赤作用を示す。この効果があることから、カユプテ油は、打ち傷や捻挫や擦過傷(すり傷)などのためのいろいろな塗布剤によく配合されている。「発赤(ほっせき)」というのは、血液が特定の部分の皮膚の下に集中することで、これによって傷害の治癒が促進されるわけである。