2014年4月23日水曜日

ジャスミン | アブソリュートを買うときには注意して!⑫

ジャスミン(Jasminum officinale var. grandiflorum、原種は J. officinale)アブソリュート
 
このモクセイ科の常緑小低木ジャスミンは、オオバナソケイ(素馨)といわれ、ソケイ属の植物である(カタロニアジャスミン、イタリアジャスミンとも呼ばれる)。ジャスミンの原種であるJ. officinale(ポエッツジャスミン〔poet’s jasmine〕、コモンホワイトジャスミン〔common white jasmine〕と俗称される)は厳密にはこれとは別物であるが、香りにほとんど違いがなく前者とだいたい同一視され、香料用にされる。
前者(J. officinale var. grandiflorum)のほうは、花の直径が最大3.5cmにもなる。原種のJ. officinaleは花の直径が最大2.5cmのため、効率よく芳香成分をとるために前者のほうがひろく栽培される
中国産のジャスミンは素馨(そけい)で、茉莉(マーリー)は、その一部に属する。その学名は、J. sambac。茉莉花(マーリーホワ)は中国人に愛される花の一つで、このつぼみを茶に入れた茉莉花茶は美味である。日本で市販されているペットボトル入りのジャスミン茶は合成香料しか入っていないニセモノだ。
 
茉莉は、学問的にはアラビアジャスミンという。中国民謡『茉莉花』は古来愛唱されてきた。アグネス・チャンのこの歌は、一度聴く値打ちがある(関係ないか)。
 
花の香りの女王をバラとすれば、ジャスミンはさしずめ花香の王だろう。ジャスミンの原産地は、アフリカ・アジアの亜熱帯・熱帯地方で、その種類は300種を数える。
白や黄などの小さい花を咲かせるものがあり、そのうちひときわ強い芳香を放つ種類がある。そこで、これが香水とか茶の付香などに利用される。
 
ジャスミンの花にはいくつもの香気成分が含まれる。とくにジャスミンの特徴的な香りのもととなるcis-ジャスモンはいまだに工業的に生産する方法が確立されていないので、これを使った香料はきわめて高価である。
これがジャスミンのアブソリュートがアロマテラピーではほとんど使われていない理由の一つである。
しかし、これには後述するもっと重大なわけがある。
 
このジャスミンの産地の一つ、エジプトでは午前3時ごろから10歳未満の少年たちが袋を背負って、午前9時ごろまでの間に花を一つ一つ手摘みして袋に入れる。腕のいい子は、その時間で7万個の花を摘む。そして、その賃金は極めて低い。モロッコ、インドなどでも同様である。花はバラなどと違って、ごく小さい。私はこの花を見ると日本のテイカカズラを連想する。
 
花700kgから、ようやく1kgのアブソリュートが抽出される。花の数にすると数百万個になるだろう。高価なわけだ。明け方に黙々と摘花する少年たちを思うと、私は何か悲しみ・怒りをおしとどめることができない。もちろん、香りのもつ文化史的な意味は十分わかっているつもりではある私だが。
そうして集めた花は、アセトン、ヘキサン、四塩化炭素、石油エーテル、ベンゼンといった、発ガン性有機溶剤で処理してコンクリートというもの(花のワックスと芳香成分の混合体)の形態にして、これをエチルアルコールで摂氏78度ほどで蒸留すると、アブソリュートが得られる。
このアブソリュートを使った有名な高級香水が、ジャン・パトゥー社の”JOY”である。
 
茉莉花は、華南・台湾・インドネシアなどで栽培され、早朝つぼみの状態のときに採取され、烏龍茶に着香するために利用される。
 
むかしは、ジャスミンの花を獣脂と植物油とに混ぜたものに根気よく何度も貼り付けて、その芳香成分を移して、それをエタノールで蒸留していたので問題はなかったが、現在では、これは手間と人件費がかかりすぎるので、このメソッドを採用している会社はいまは世界にたった1社しかないと聞く。この方法をアンフルラージュと呼ぶ。これは冷浸法と訳される。
 
したがって、有機溶剤抽出法が主流になった現在、アブソリュートは、バラなどとともにジャスミンもあまりアロマテラピーでは用いられない。最終製品に発ガン性物質が残留するからだ。マギー・ティスランドなどは紅茶にジャスミンアブソリュートを入れて飲むことを賞揚しているが、そうした危険性をどの程度認識しているのか、不安である(香水のように、ほんの少し、それもタマにしか体表につけないものなら問題にはならないが)。
ジャン・バルネ博士は、冗談半分だろうが、ジャスミンを内用すると、糞便がジャスミン香を発するようになると書いている。
 
 
主要成分(%で示す)
 ベンジルベンゾエート 11.5
 ベンジルアセテート  25.8
 リナロール      4.6
 インドール      3.7
 オイゲノール      2.6
 cis-ジャスモン      2.4
 ファルネセン     2.0
 ファイトール類    27.9
 
・偽和の問題
 真正のジャスミンアブソリュートは、なんといっても高いので、多くの成分が偽造される。偽和はインドール(糞便臭のもとの成分。自分のウンチから採ればよさそうだが、やっぱり合成する)、合成シンナミックアルデヒド、イランイランのカスみたいな留分などを用いて偽和する。合成ジャスミンは、しつこい、いやらしい甘さがして、文字どおり安っぽい香りがあり、すぐにわかる。わからない人は香水を熟知している人に尋ねて、そんな成分で作った香水をつけるのは控えて欲しい。他人の迷惑になるから。
 
・毒性
 LD50値
 ラットで>5g/kg(経口)、ウサギで>5g/kg(経皮)
 光毒性は報告例はない。
 
・効果
 薬理学的作用 生体から摘出したモルモットの回腸において、痙攣惹起作用を示した。
 殺菌作用 報告されていない。
 抗真菌作用 報告されていない。
 その他の作用 CNV(随伴性陰性変動)によって、刺激作用があることがわかっている。
 
なお、パトリシア・デービスによれば、ジャスミンアブソリュートには子宮強壮作用があり、月経痛を鎮める力がある。また、出産時にこれを腹部にマッサージすることで、苦痛を軽減でき、収縮を強め、出産を助け、胎盤の排出を促すとともに、産後の回復を助けるという。またこれらには抗うつ作用があるために「マタニティー・ブルー」を好転させるのにも有効だそうだ。
ジャスミンはまた、ことに男性に催淫作用を示す。これはジャスミンに不安や恐れ、うつといった性欲を抑制するファクターを軽減ないし解消する力があるためである。
 
・思い出
 ① どうでもよいことだが、東京・飯田橋にインドカレーでけっこう有名な店があった(いまはどうか知らないが)。その店名は「インドール」といった。私は好奇心が旺盛なので、一度寄ろうと思いながら果たせずにいる。実は、このインドールというのはインド中部の都市名Indoreからとったもので、ジャスミンの成分indoleとは無関係である。
 
 ② また日本アロマ○○協会の講演で、ある学者とおぼしき男が、ジャスミンをわざわざ水蒸気蒸留した結果を大まじめで報告した。私は思わず、何でそんなことをするのか尋ねた。すると、隣席のこれまたウスラバカづらの学者らしき男が「実験的にトクベツに行ったんですよ!」と私を叱った。なるほど、先人の行ったことでアタリマエとされているものでも、何度でも疑問をもって再現実験・追試すること自体は決して悪くはない。科学的精神のあらわれである。
 
しかし、16世紀以降、無数の人びとがジャスミンの花を水蒸気蒸留すれば多数の芳香形成成分が破壊され分解されて、香りがひどく劣化してしまうことを認めたからこそアンフルラージュとか有機溶剤抽出法とかを採用しているのだし、また当然20世紀生まれのアロマテラピーのための精油としても効力が大幅に落ちるであろうことは誰しもわかることだ。経験則というべきか。
こういう先生方は、ニュートンの万有引力の法則もついでに再試験してみられるとよい。
東京タワーか、最近できたスカイツリーなどの高いところから空中に飛び出してみて、地球に引力があるかどうか、我が身をもってシッカリ追試なさることを心からお勧めする。科学者の鑑と讃える奇特な人もいるかもしれない。
故・藤田忠男博士にこのことをお話ししたら、呵々大笑なさるはずだ。
そして、「だから、あの協会はダメだと見切りをつけて、会員たちが私のところに話を聞きに来るんですよ」とおっしゃることだろう。
 
付け加えておくが、この講演でジャスミン「精油」のほうが、アブソリュートよりも薬理学的に効果が高かったなどという発表など何一つなされなかった。「あたりまえすぎることをいうな」と識者からドヤされそうだ。世の中にはとかく学者を名乗るバカ者が多すぎる。高校の入試問題をこんなやつらに課してみれば、月給泥棒の化けの皮がハガレるだろう。そういうことをしない文科省は、そんな連中と共犯関係にある、なれ合い関係を持っているとみられてもしかたあるまい。 

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