2014年2月13日木曜日

髙山林太郎 緊急手記「ジャン・バルネ博士はロバート・ティスランドをどう見ていたか」

ジャン・バルネ博士は
  ロバート・ティスランドをどう見ていたか

 
髙山林太郎
 

 『アトミックな植物療法』としてのアロマテラピー

 
 ジャン・バルネ博士は、アロマテラピーを「アトミックな植物療法」と呼び、芳香植物のエッセンスを利用するという特殊な形態をとるものではあっても、これを植物療法のカテゴリーに入れて、その成分の作用機序を「あくまで科学的に」解明しようと努力した。
 しかし、それを狡猾にパクり、換骨奪胎(かんこつだったい)した英国のロバート・ティスランドは、バルネ博士の科学的精神を虐殺し、ホメオパシーだのバッチのフラワーレメディーだの星占いだのという、およそ科学性のカケラもないものにすりかえ、英米人の、また日本人のアロマテラピーに対する認識を強引におしゆがめてしまった。人びとのなかには、アロマテラピーをホメオパシー同様に「いかがわしいもの」とみるものが続出したのも当然だ。
 私は、これまでジャン・バルネ博士のロバート・ティスランドに対する思いをよく知らなかった。
 しかし、最近、晩年の博士のことをよく知っている人物からくわしい情報を得て、ただの少しばかり文才のあるチンピラヒッピーだとロバート・ティスランドのことを考えていた私は、自分の愚かさにあきれ果てている。
 
 

 両者を翻訳し、日本に広めた人間として


 ロバート・ティスランドは、こざかしい悪党だったのだ。おのれの金儲けのために、バルネ博士の科学的精神を裏切り、魂を悪魔に売ったのである。そして、英国のアロマテラピーの元祖づらをして、恬然(てんぜん)として恥を知らない下劣なさもしい男だった。
 
 そして、それを訳した私も、結果的にこの悪党の片棒をかつがされてしまった。二十九年前の、私がこの英国で歪曲された療法、あるいはそこに盛りこまれたホメオパシーそのほかの迷信性をよく知らない時点だったとはいえ、そんなことはいまさら何の弁解にもならない。私は自分に一切、免罪符などを与えるつもりはない。
 ジャン・バルネ博士は、自分が説きつづけた科学的アロマテラピーが、英国の教養もない迷信家どもに、金儲けに目がくらんだ連中に土足で踏みにじられ、引き裂かれるのを見て、どれほど悲しみ、心を傷つけられ、かつ怒っていたことか。
この両人の著書をそれぞれ英語・フランス語から訳した私には、誰よりも博士の悲しみと憤怒とが、心臓をえぐられるような痛みとともに、よくよくわかる。
 
 私は、フランスから泳いでも渡れる英国で訳出され刊行されたバルネ博士の原書がほとんど売れず、まったく人びとの話題にもならなかったことを、よく知っている。
 私は、ロバート・ティスランドの“The Art of Aromatherapy 『アロマテラピー:《芳香療法》の理論と実際』”を翻訳し、フレグランスジャーナル社から出す何年も前に、ジャン・バルネ博士の“AROMATHERAPIE : Traitement des maladies par les essences de plantes :ジャン・バルネ博士の植物芳香療法”を試訳していた。
 しかし、私がアロマテラピー書を出したフレグランスジャーナル社は、東販、日販(注:いずれも各出版社の出した本を一般の書店に卸す大手会社)といった取次店に口座をもたず、ダイレクトメールで新刊を人びとに紹介するしかない小出版社である。ここに、書店では売れない、また一般人にはおいそれと販売できないとわかっている、程度の高いバルネ博士の本を、慈善事業だと思って日本最初のアロマテラピー紹介書として刊行してほしいなどと、私にはどうしても同社の社長に頼むことはできなかった。
 そして、結果として、このホメオパシーだのバッチのフラワーエッセンスだの、はては占星術だのというものまでブチこんだ「英国式アロマテラピー」なるインチキだらけのアロマテラピーを日本中に蔓延させてしまい、各種のアロマテラピー協会などという金儲けばかりをめざしているとしか思えない諸団体を雨後のタケノコさながらに生えさせてしまった責任を、私がとらざるを得なくなったと考えている。
 

 もう一度認識していただきたいバルネ博士の植物芳香療法


 全国のみなさんから、こざかしい悪党、ロバート・ティスランドの「共犯者」として、私は弾劾され、罵倒されることを、ここに強く求める。そして、みなさんに深くお詫びするとともに、私は死ぬまでに、ジャン・バルネ博士の墓前にぬかずいて、心の底から許しを乞うつもりでいる。
 ろくに医学など知らぬルネ=モーリス・ガットフォセの着想した「アロマテラピー」を、懸命に医学としてのレールの上に、きちんとのせたジャン・バルネ博士の晩年の心情を察すると、私の胸は後悔の念で張り裂けんばかりに痛みに痛む。
 現代のアロマテラピーは、まさにこのジャン・バルネ博士からスタートした。ジャン・バルネ博士の著書『ジャン・バルネ博士の植物芳香療法』が絶版になって久しい今、このことを、ぜひ再認識して頂きたく、この一文を草した次第である。 

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