2013年7月12日金曜日

塩田清二 著『<香りは>なぜ脳に効くのか』について

タイトルの本の題名は、NHK出版新書から、塩田清二氏(昭和大学医学部教授)が昨年出された本の題である。アロマセラピー学会理事長をつとめている方だそうだ。

たいへんわかりやすく書かれた書物だと思った。「はじめに」の項で、宗教と香り、ないし香(こう)との関係が記されているのも興味深い。

ただ、カトリック・ギリシャ正教に触れるならば、別の部分でもよいから、この両者の終油の秘跡(ひせき)についても述べて頂きたかった。

カトリックでは、人が死んでからその額に香油を塗る。しかし東方正教会ではまだ生きている瀕死の人間の額に香油を塗る。

私は、このほうが「芳香療法」のプロトタイプに、より近いのではないかと思う。なお、東方正教会では「秘跡」とはいわず「機密(きみつ)」と呼んでいる。

まあ、著者の先生がアロマセラピー学会理事長ということもあって、「アロマセラピー」という用語を採用されたのだとは思うが、やはり現代の芳香療法の名付け親であるルネ=モーリス・ガットフォセの作ったAROMATHERAPIEということばの発音に、より近い、「アロマテラピー」を使用して頂きたかった。


ここで、「フランスやベルギーでは長らく医療行為として認められているアロマセラピーですが」ということばがある。どういう根拠に基づいてこう言われるのか。

まず、フランスでは、現在ではアロマテラピーに不可欠な精油は、たとえばパリなどの薬局にはない。また、精油も健康保険が適用されている「薬剤」ではない。フランス・ベルギーの薬局方で、すべての精油が認められているとは、とうてい信じられない。責任あるご発言をお伺いしたい。

また、そのすぐあとに「リラクゼーション」という聞き捨てならないコトバが出てくる。塩田氏は、人間はrelaxすることはご存知だと推察する。これにいちばん近い日本語発音は「リラックス」だろう。

relaxするのは、「くつろぐ、息抜きをする、レクリエーションする等々」にあたる行為をすることだ。

人間には、リラックスは大切だ。けれどもリラッグズする人間はいないはずである。もしいたら、それは人間の「クズ」だろう。

塩田氏はきっと、relaxation という英単語にお接しになったことがないのだろう。一度、ぜひ英和辞典で信頼のおけるものをじっくりと読んでいただきたい。relaxation は、英国と米国とでやや発音が異なる。しかし、リラクゼーションという発音記号が載っている権威ある辞典があったら、ぜひご教示をお願いしたい。人間はリラックスする、だからその名詞形はリラクセーションを措いて存在しない、と思うからである。

このリラクゼーションなる異様なコトバは、はっきりいって大都会の歓楽街で、ヤクザが経営する、いかがわしい不潔なファッションヘルスで作られたコトバだ。アロマテラピストも同断である。これらは英語でもフランス語でもドイツ語でもない。珍無類の日本産のコトバだ。塩田先生のご人格を疑わせないためにも、リラクゼーションは、なにとぞおやめ頂きたい。この本には、何箇所もこのコトバが登場するので、あえて失礼を承知で申し上げておきたい。

香りが脳に及ぼす影響が大きいことは、きわめて興味深い事実である。
たとえば、室町時代あたりから日本で広まった(もとより一部の人間にかぎられているが)香道では、伽羅(きゃら)、羅国(らこく)、真那伽(まなか)、真南蛮(まなばん)、佐曽羅(さそら)、寸聞多羅(すも[ん]たら)の六国(りっこく)の香を一定のルールでたき、一種のゲームとしてそれを鑑賞する(聞香[もんこう]という)のだが、これらのいずれの香にも、それぞれ薬理効果があり、一通りの聞香を終えた人間は、みな心底リラックスするとともに、この上ない、生まれ変わったようなさわやかさを覚える。そして、とくに強調したいのは、この香道の師匠は、いずれも心身ともに健康で、脳を絶えず刺激するせいか、年齢を重ねても、認知症などとは無縁で、長寿を保つ人びとが多いということである。

この香道に立脚して、というか、これを利用したのが秋田大学の長谷川直義先生の聞香療法である。長谷川先生は、この療法で中年女性らの不定愁訴に対処されたと聞く。

日本発のアロマテラピーとして、この話をぜひご解説願いたかった。欧米人も、これに強い興味を寄せている。

今回は、この本の冒頭部のみの感想に終わってしまったが、内容についても追ってじっくり勉強させて頂き、感想を述べさせていただくつもりでいる。

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